12、危険な榊山の段 ページ12
「失礼しまーす」
「お、珍しい客だな」
「あれ、どうしたの？A」
三日月が輝く夜から数日後の夜。
Aが訪れたのは食満と善法寺の部屋だ。
「夜分にすみません。善法寺先輩にプレゼントがあって」
「僕にプレゼント？」
首を傾げる善法寺の前に、Aはニコニコ笑顔で座る。
腕は背中の後ろに回し、何かを隠しているようだ。
「恋文か？」
「そんな訳ないじゃないですか！」
「ちょ、そこまで否定しなくても！」
食満の言葉に全否定するA。
流石に傷付くと、善法寺は嘆いた。
「では何を隠してるんだ？」
善法寺より食満の方が気になっているのだろう。
ひょこひょこと頭を動かし、Aの隠し持っている物を覗こうとする。
「食満先輩には関係ありませーん」
反抗しようとした食満だったが、Aが咳払いを一つすると大人しくなった。
「では善法寺先輩！受け取ってください」
「……え、これってっ！」
善法寺の前に差し出されたそれは、食満にはよく分からなかった。
「これを、どこで……」
善法寺は受け取ったそれとAの顔を交互に見る。
「榊山の頂上に一輪だけありました！」
榊山と言えば、雲よりも高い山だ。
二人はそれを聞くと、ガラリと顔色を変えた。
加えて頂上までの道は険しく、今まで多くの者が命を落とした。
「A、あんな危険な山へ登ったの、？」
「はい。気候と体を調整する為に、二週間はかかってしまいましたけど……」
申し訳なさそうに眉をひそめるAだが、善法寺はそんな事を聞きたいのではない。
「一人で、？」
「はい！急用があると言って、林田先生に外出許可を頂きました」
お茶目のような笑みを溢すAを尻目に、善法寺はポロポロと涙を流していた。
「A、……Aっ！」
「ぜ、善法寺先輩？」
そのまま勢い良くAに抱き付き、今度は豪快に声を上げて泣いた。
「全くお前は、……五年生とは思えぬ程の勇敢さだ」
食満のその瞳にも、善法寺と同じように雫が溢れていた。
「けど、あんな危険な所に一人で行ってはいけない。分かったか？」
「……分かりました。心配をお掛けしてすみませんでした」
余程食満の真剣さが伝わったのだろう。
Aはしっかりと頷くと、深々と頭を下げた。
「A、ありがとね」
「……はい！」
涙に埋もれていたがその嬉しそうな顔を見ると、Aも泣き出しそうになった。
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作者名：もやし | 作成日時：2020年12月13日 20時
