第5話 ページ5
炭治郎side
よかった。Aが無事でいてくれて。
でもどうして。
どうして、俺たちに助けを乞わないんだ？
どうして、そんな悲しそうな匂いを出すんだ。
…いや、そんなことは後でゆっくり聞き出せばいい。まずはAを助けないと。
相手が上弦の鬼でも関係ない。
「そんなに怖い目で見ないでよ。Aなら返してあげる」
「なっ…！？」
何を考えてるんだ、この鬼は。
「もっとも、Aがそれを望めば…ね？」
鬼は一度Aから離れる。
俺たちはすぐにAのもとに行こうとしたが、それは血鬼術で妨げられた。
「言ったじゃないか。Aが望んだらって。君たちが連れて行ってはダメだよ」
「A！！何してるんだ！早くこっちへ来い！」
「そうだよAちゃん！早くしないと鬼に食べられちゃうよ！？」
「お前は俺の子分なんだから親分である俺のところに居なきゃいけねぇんだ！」
「うー！」
俺に続いて善逸と伊之助、更には箱から出てきた禰豆子もAに呼びかける。
それでAはこっちに来ると思っていた。…来るはず、だったんだ。
「…私は童磨様から離れないわ」
そう言ってAは童磨という鬼に自ら近づき腕を絡める。
何が起きてるのかわからなかった。
鬼の血鬼術か、悪い夢ともさえ思えた。
だってそうだろ？
あのAが鬼に味方するはずがない。
俺たちと一緒にいて、鬼殺隊として人を助けて、俺たちの誰かがピンチになった時は身を挺して守ってくれたAが。
なんで。どうして。
いつも無表情で俺たちにさえ少しの微笑みしか見せなかったのに。
なんでその鬼には笑顔を見せるんだ。
「何言ってるのAちゃん！そいつは鬼なんだよ！？」
善逸が声を荒げる。
「…？善逸こそ、何を言ってるの？童磨様は鬼なんかじゃないわ」
「！？」
その時、童磨の顔が大きく歪んで不気味な笑みを浮かべる。
まさか…！
「お前…！Aに何をした！！」
「俺はAを救っただけだよ。人生に絶望して、今にも死のうとしていたAをね」
救った…？違うだろ。鬼殺隊として何度も鬼を見てきたAが童磨を人間だと思うはずがない。
きっとこいつはAの弱さに付け込んで………
待て。この鬼は今何を言った…？
Aが死のうとしていたなんて…そんなはず…
ふと、Aの方を見ると、匂いこそしなかったが無表情だったその顔は酷く悲しみに歪んでいた。
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作者名：みゆう | 作成日時：2020年6月23日 23時
