第10話 ページ10
炭治郎side
俺は絶句した。
Aさんの話は想像以上に悲しい話だった。
Aさんの大切な人が鬼になったというところが、俺と禰豆子によく似ていて。
もしかしたら、何かが違えば、禰豆子も鬼殺隊の人に、義勇さんに殺されてたかもしれなくて。
そう考えると言葉が出なかった。
「私が禰豆子ちゃんを執拗に殺そうとしていたのは、彼と重なったから。
禰豆子ちゃんと同じように鬼になり、人を食べたり攻撃すらしなかった彼は殺されてなんで禰豆子ちゃんは殺されないのって思ってしまった」
もし、禰豆子が殺されてたら。
もし俺がAさんの立場だったらきっと同じことをしていただろう。
「ずっと、彼は人間だと信じていた。鬼になんかなってない、あの時殺されてなければ今でも一緒にいられたのにって。
…でもね、最近彼が教えてくれたの。あの時、彼を殺した人は彼を救ってくれたんだって。本当の鬼になってしまう前に止めてくれたんだって」
悲しいはずなのに、辛いはずなのにAさんはとても、幸せそうな顔をしていた。
「彼は約束を守っててくれたんだ。ずっと、私の傍にいてくれた。
…どんなに辛くても、悲しくても、例え、見えなくても。
私は、彼がいるだけで幸せなんだ」
「Aさんは強いんですね」
自然と、口から滑り出た言葉。
「…強くないよ。強かったら、禰豆子ちゃんを狙ったりしなかった」
その言葉を最後に、しばらく沈黙の時間が流れる。
「…あの、質問していいですか?」
「どうぞ」
「Aさんは、鬼殺隊を恨んでないんですか?」
話を聞いて、一番気になったことだ。
「恨んでるよ。…いや、恨んでいたが正しいかな。
この前、彼が教えてくれるまで鬼殺隊のことが憎くて憎くてしょうがなかった」
「じゃあ、なんで」
「なんで鬼殺隊に入ったのか?…そうだね、なんでだろう」
Aさんは考える素振りをする。
「たしか最初はね、鬼殺隊に入って内部から組織を攻撃して破壊してやろうと思ってたの。
…でも、今までそれが出来なかったのは、やらなかったのはきっと、それをやってしまったら彼に合わせる顔がなくなるってわかっていたから。
彼は、死んだ後も私を救っていてくれてた」
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作者名:みゆう | 作成日時:2020年8月16日 6時