第8話 ページ8
冷たい身体。
呼んでも返事をしてくれない彼。
どんなにゆすっても、起きてくれない。
「ねぇ、起きてよ。嘘だって言ってよ」
涙が、頬を伝う。
「二人で、逃げるんじゃなかったの…?一緒に暮らそうって、ずっと一緒にいようって約束してくれたじゃない。何とか言ってよ、ねぇ、ねぇ!!」
「…そんなに泣かないで」
「!」
聞きたかった声。
私の大好きな声。
「よかった、生きてたんだ…ね……」
目を疑った。
起き上がった彼の姿はあまりにも変わっていたから。
額に生えた角、鋭すぎる牙と爪。
その姿はまるで鬼のようだった。
「ど、どうしたの?その姿」
「鬼に、されたんだ」
「鬼…?何言ってるの、鬼は物語の生き物でしょ?」
私の問いに静かに首を横に振る彼。
「鬼はいたんだ。昨夜、いきなりここに来て僕の両親を殺していった。僕もやられたはずなんだけど、今こうして生きているってことは鬼にされてしまったってこと。現に、鬼のような姿になっているだろう?」
「そんな…で、でも、君は君のままでしょ?鬼だなんて関係ないよ。私は気にしない。だから、一緒に逃げよう?」
「………」
「どうして黙ってるの?約束したじゃない。早く行かないと、他の人が来ちゃう」
「僕は、行けない」
「なん」
なんで?という私の言葉は戸を突き破る音でかき消された。
「鬼と人間の少女を発見。貴方は少女の方をお願い」
突然現れたのは、真っ黒で背中に滅と書かれた服を着た女性と男性。
二人は躊躇いもなく家の中へ入り、女性は彼の前へ、男性は私を抱き上げ彼から引き離した。
「何するの!?離してよ!彼の傍に行かせて!!」
「あいつは鬼なんだぞ!!行かせられるわけないだろ!」
「鬼だから何なのよ!彼であることに変わりはないわ!」
「馬鹿野郎!鬼は人間を喰うんだそ!!」
鬼は人間を喰う。
その言葉が、頭の中で何度も繰り返された。
「は……じゃあ尚更鬼なんかじゃないわ。さっきまでずっと話してたけど、彼は私を食べようとなんてしなかったもの!!」
「そんなはずないだろ!あいつの姿をよく見てみろ!!明らかに鬼じゃないか!」
「本当よ!だから離して!!」
必死に暴れて男性の腕から抜け出そうとするが、相手は体格のいい成人男性。
対してこっちはまともな食事もしてない子供。
勝ち目なんかなかった。
ふと、彼の方を見た。
____彼の顔が、頭が宙に浮いていた。
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作者名:みゆう | 作成日時:2020年8月16日 6時