第7話 ページ7
あるところに、とても可哀想な少女がいました。
少女は実の両親に愛されなかった。
毎日罵られ、蹴られ、殴られ。
満足な食事も寒さを凌ぐための服も、名前さえ与えられなかった可哀想で不幸な少女。
そんな少女にも心の支えがあった。
それは、近所に住む少年。
その少年も、親に愛されなかった。
似たような境遇だからか、二人はすぐに仲良くなり毎日一緒にいた。
「大きくなったら、二人で逃げよう。
誰も知らないような場所に行って、二人だけで暮らすんだ」
少年が言った言葉。
少女はとても喜んだ。
「ずっと、死ぬまで。ううん、死んでも一緒にいようね。約束だよ!」
二人だけの約束。
約束という名の呪い。
交じり合わせた小指の温度を今でも覚えている。
少年、…いいや、彼がいてくれるだけて幸せだった。
彼だけが、私の生きる希望だった。
………。
歯車が狂い始めたのは、突然だった。
ある日、彼が待ち合わせ場所に来なかったのだ。
毎日決まった時間に決まった場所で私たちは会う約束をしており、もし来れなくなっても何らかの形で連絡するという決まりがあった。
お互いにちゃんと生きているかを確かめるために。
血の気が引いた。
大人は、私たちのことを当たり前のように殴ってくる。
両親だけじゃなく、村人までもが面白半分で殴る。
正直、いつ殺されてもおかしくはなかった。
私は走った。
彼の家へ一直線に向かった。
生きていますように、無事でありますようにと何度も願いながら。
彼の家は、いつもと違った。
いつもは彼の父親らしき人の怒鳴り声や物を投げる音が常にしていたのに、その時は異様なまでに静かだった。
そして、鉄のような匂い。
私はこの匂いをよく知っている。____血の、匂いだ。
それも家の外まで漂ってくるぐらいの強い匂い。
家の中がどうなっているのかなんて、見なくてもわかった。
案の定、戸を開けるとまさに血の海という言葉がぴったり当てはまるような景色が広がっていた。
手前におばさんとおじさんが血まみれになって横たわっている。
おそらく彼の両親だろう。
そしてその奥にある血溜まりの上にポツンと置かれてある身体。
ボロボロの服を着た、痩せ細った身体。
顔を見なくても、彼なんだとわかった。
「うそ、でしょ?」
信じられない。
信じたくない。
お願い、生きていてと強く、強く願う。
…その願いはすぐにかき消された。
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作者名:みゆう | 作成日時:2020年8月16日 6時