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第4話 ページ4

夢を見た。


真っ白な世界に赤い彼岸花が咲き狂う。


それが夢だとわかったのは、死んだはずの彼がいたから。


夢だとわかっていた。目の前にいる彼は私が生みだした幻だということも。


それでも、抱き着かずにはいられなかった。


「甘えん坊なところは、相変わらずだね」


彼の声、彼の手、彼の体温。


夢にしてはそれはとても現実的で。


「…ずっと、会いたかった」


「うん」


涙声で、震える喉からようやく出すことが出来た言葉に彼は抱きしめたまま返してくれる。


「ずっとずっと大好きだった。…もちろん、今も」


「…うん。僕もだよ」


あの時、言えなかった言葉。


ずっと言いたかった言葉。


止まることを知らない私の涙が、どんどん彼の胸を濡らしていく。


彼はそこにいるのに。体温だって感じるのに。


……鼓動の音は聞こえなくて。


無音の彼の身体が、これは夢なんだと、彼はもうこの世にいないんだということ痛いぐらいに教えてくれた。


「…………君は、私のことを恨んでる?」


怖い。


もし、もしもここで恨んでいると言われたらどうすればいいのか。


自分から聞いたのに、彼は本物ではないのにとてつもなく怖い。


「恨んでないよ。…僕は、誰のことも恨んでない」


「ほんとに…?」


「僕が嘘をつけない性格だってことは、君が一番わかっているだろう?

君は、僕のことを殺した鬼殺隊のことを恨んでいるのかもしれないけど、僕は感謝してるんだ」


「どうして?貴方は人間だったじゃない!!あの時鬼殺隊が来てなければ、私たちは今でも一緒に…!」


「あの時、鬼殺隊の人に頸を斬られてなかったら僕は本当の鬼になっていた」


「え…?」


「最初はなんとか理性を保てていたんだけどね。鬼の血が、どんどん身体を蝕もうとしていた。

もしあのまま誰も僕の頸を斬ってくれなかったら、僕は君さえも食べていたと思う」


「そん、な…」


ショックだった。


彼は人間だと、鬼になんてなってないと思っていたから。


…違う。


そう、信じたかったんだ。


本当は心のどこかで分かっていたのかもしれない。


認めたくなくて、無意識に蓋をしていただけで。


でももう、そうしていられる時間は終わったんだ。


「…君はもう、僕に囚われなくていいんだよ」


一見優しそうに見えるその言葉。


遠回しにこれからはもう、彼を愛したAではなく雪柱のAとして生きろと言っていて。


私にとってそれはとても残酷な言葉だった。

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設定タグ:鬼滅の刃   
作品ジャンル:アニメ
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作者名:みゆう | 作成日時:2020年8月16日 6時

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