最終話 ページ11
「ねえ。そこにいるんでしょ？」
何もないところに話しかけると、心地よい風が吹く。
見えていないけど、声も聞こえていないけれど、たしかに彼はそこにいる。
「ちゃんと謝れたよ。…気持ちの整理も、つけれた」
私は胸元から桃色でひし形の石がぶら下がった首飾りを出した。
それは、彼が消えた後に服と一緒に残っていた彼の遺品。
「もう大丈夫だよ。
一人で大丈夫。もう間違えない。今まで、ごめんね」
私が彼の死に囚われると同時に、彼もまたそんな私に囚われていた。
私がいつまでも過去から抜け出せなかったせいで、彼はずっとこの世に縛られていた。
「そして、ありがとう。
私さ、鬼舞辻を倒すまで…ううん、倒した後もずっと長生きして幸せになってみせる。幸せになって笑顔で貴方に会いに行く。
だからさ、新しい約束。
私がそっちに行くまで天国で待っててよ。そして生まれ変わって、次こそは二人で幸せな人生を歩もう？」
そっと、右手を前に出し小指だけを立てる。
少し間を開けた後、小指に私のではない体温が伝わってきて。
幻かもしれないけれど、その一瞬だけ、笑顔の彼が見えた気がした。
「約束だよ！」
力一杯、笑った。
頬が濡れていることなんて無視して。
いつか会える。また一緒に遊べる。
そんな未来を信じて人生で一番の笑顔を。
またね、と彼の声が聞こえたような気がした次の瞬間、強い突風が小指にあった体温を奪っていった。
右手を下ろし、耐えきれなくなった涙を止めることなく流した。
子供のように声を出して。
ただ一人で、泣いた。
左手で握りしめていた首飾りの石は、いつの間にか砕け散っていた。
ー完ー
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作者名：みゆう | 作成日時：2020年8月16日 6時
