ノラ猫の恩返し (yb×in)

8 ページ8

…何か聞こえる…？


いのおの…声がするような…






「薮さん！？聞こえますか？」



ゆっくり目を開けると、真っ白な天井。


ピッ、ピッ、という機械音と、シュー、シューという規則的な音が聞こえる。


視点が合ってくると、見えたのは…マスクを付け、白衣を着た男性だった。


「…っ」


口元に何か付けられてる。
これ…テレビで見たことある…酸素マスクってやつ…？


マスクの男性(先生か…？)の目元がふわりと微笑んだ。



この瞳を俺は知ってる。



とろんと垂れた、大きな二重瞼






俺の口元に手をかけ、酸素マスクを外してくれた。



「い…」

「気分はどうですか？名前言えます？」

「やぶ…こうた」

「薮さん、交通事故に遭って5日間意識不明だったんですよ。良かった、目覚めて…」

「交通事故…？」

「僕は担当医の伊野尾です。ご家族の方にお知らせしてきますね」

「いのお…」



やっぱりいのおじゃないか

担当医？

交通事故？

何を言ってるんだ




まだ、"夢"の続きなのか…？






翌日俺はICUから一般病棟に移り、家族と面会した。


「宏ちゃん…！！」


両親も兄も姉も、みんな泣いていた。



外傷は左足首の捻挫、あとは軽い擦り傷だったのだが


頭を強く打っていたため、意識不明になっていたそうだ。


「猫がね、救急車が来るまで倒れてる宏ちゃんの側にずっといたんだって。その子を助けようとしたの？」


母に訊かれたが、全く思い出せない。



…猫…？




「…その猫って…もしかして白地に茶色のブチ模様…？」

「さあ…そこまでは聞いてないけど…」



ノックの音と共に引き戸が開く。
伊野尾先生だった。


「どうですか？薮さん」

「先生…！本当にありがとうございました…！」

両親が深々と頭を下げる。


「薮さんの生命力のおかげですよ。僕も嬉しいです」


微笑む目元が…懐かしさすら感じてしまう。



家族が帰った後、検温と診察をしてくれる。

胸に付いてるネームタグを見ると"伊野尾慧"と書いてあった。




「記憶障害も無さそうですね。体力が戻り次第一旦退院としましょう」

「一旦…？」

「脳の検査はしばらく続けたいので、少し通院して頂きます」


…5日も意識不明だったって言ってたもんな…





え…？





「5日…？」

「薮さん？」

「5日間…眠ってた…」

「？…そうですよ」

9→←7

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す