ノラ猫の恩返し (yb×in)

12 ページ12

薮さんは、意識の無い間ずっと医者じゃない俺が出てくる夢を見てて、"すごく楽しかった"と言ってた。



俺がマスクを外したら涙を流して


猫の話をしたら…更に泣いていた。




5日も意識不明だったんだ。不安定にもなるだろう。



薮さんの飼い猫だったみたいなのに、俺も動揺してしまってあの時"自分が保護している"と言いそびれてしまった。




─あまりにも、美しい涙だったから。




声を出して泣くのではなく、嗚咽と共にただただ零れ落ちる大粒の涙。


大人の男性があんなに泣くのを初めて見たし、俺も泣きそうになって




…思わず抱きしめそうになってしまったんだ。



薮さんの夢では…俺はどんな存在だったんだろう。




俺が見た夢は、薮さんと俺は恋人同士のようだった。

笑うと、ふにゃっと目が無くなる笑顔が印象的で。




会ったこともない人と、俺は…幸せそうだった。







次の日から、とにかく薮さんに目覚めて欲しくて、色々調べまくって治療に励んだけど、一向に目が覚める気配はなくて。





他にも担当患者さんはいるのに、常に薮さんのことを考えてた。




だから、5日目に目覚めたときは本当に…嬉しかった。



と同時に





その時から、胸のどきどきが…おさまらなくて…困ってる。






薮さんの様子を見に行こうと病室へ向かう。


ノックをして、引き戸を開けると、眠ってた薮さんがゆっくり目を開けた。


「…せんせい…？」

「起こしちゃいましたか？すみません」

「…目、瞑ってただけだから…大丈夫です」



ベッドを少し起こしてあげると、こちらを見上げた。


「頭は…痛くないですか？」

「痛くはないです。少し…ぼーっとするけど」

「ちょっと診察させてくださいね」


聴診器をパジャマの中に入れようと近づいたら、ふいに薮さんとばちっと目が合って、また心臓が跳ねた。




…落ち着け。平常心、平常心。




「…」


心音も正常。血圧も安定してる。


「お腹は空きましたか？」

「…あんまり、です」

「夕食から柔らかめのお粥少し食べてみます？」

「食べれるかな…」

「少しずつでいいんですよ。胃がからっぽだから、ちょっとずつ食べて慣らしていきましょう」

「はい」


ぎこちなく微笑んでくれた。
今は落ち着いてる。



ふいに…あの、夢で見た"ふにゃっ"とした笑顔が見たい…と思った。

13→←11

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す