【文スト】崩れゆくこの世界で生き続ける私は【BEAST】

文豪ストレイドッグス ページ40

「Aは其処に行ってる。芥川がそれを追ってつい先刻(さっき)出て行った」


　つい先刻なら、今から行けば追いつけるかもしれない。

　敦は「ありがとうございます」と頭を下げると、入口の扉へ急ごうとした。


　その時。
　乱歩が敦の服を乱雑に引っ張り、引き留めた。

　敦は危うく後ろに転びそうになったが、ギリギリ堪える。


　危ないじゃないか、どういうつもりなんだこの人は。
　だが、敦の心中なんてお構いなしに乱歩は喋りだす。

　
「まだ話は終わってないよ」


　乱歩は机上にヨコハマの地図を広げると、ある一点を指して云った。

「此処だ。この駄菓子屋の角を曲がって、マフィアがよく使う裏道に入れ。危険だが、芥川と同時に着ける」

　敦は黙って頷くと、今度こそ探偵社の扉を開き、飛び出していった。



　ヨコハマの路地裏は、裏社会の住人たちの住処だ。
　本来、マフィアから足抜けした敦が踏み入れるべき場所ではない。

　此処では、いつ撃ち殺されても文句は云えない。
　他組織の構成員に出会(でくわ)すのも、流れ弾に当たるのも、充分あり得ることだ。

　それを覚悟して、敦はもう一度だけ、此処に足を踏み入れる。





　芥川は、走る。

　マフィアの支配地域を避けて墓地を探すのには、骨が折れた。

　少しの時間も惜しい。
　一刻でも早く夜月の元へ行って、止めなければ。

　夜月の愚かな行動を。


　肺腑が痛む。
　意志だけがどんどん前に進んでいき、身体が追いつかなくなり始めた頃、漸く芥川は其処を見つけた。


　西洋風の白い墓石が並ぶ、美しい場所だった。
　所々に広葉樹が枝を伸ばし、振り返ればヨコハマの海が見える。
　こんな場所に、あの男は眠っていたのか。
　芥川は、考えた。


　墓地の1番奥まで行くと、そこには一段と大きな木陰があった。
　その下に、一つだけポツンとある墓石。

　ああ、其処だ。

　芥川は直感した。

　恐る恐る、ゆっくりと近づいていく。


　不意に、聞き覚えのある声がした。

　墓石の影に見えたのは、栗色の、ふんわりとした軽さを感じさせる髪。

　Aだった。





　敦は、走る。

　銃弾が飛び交うマフィアの抗争地を抜け、目的の墓地へと、ほぼ一直線に走る。

　止まっている暇はない。
　少しでも早く、『3人目』の女、夜月を殺し、護らなければ。

　この世界の、安寧を。



　意志が身体を突き動かし、虎が百を超える凶弾を弾いた頃、漸く敦は女を見つけた。

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