貴方にはなれない ページ37
「首領になってなりを潜めてたが、幹部の頃の奴は相当ヤバかったぜ。仕事中に川に飛び込むわ、執務室で首を括ろうとするわ。そのくせに悪運だけは強くて、銃弾が飛び交う中ピクニックをしようと怪我一つ負わない」
Aは絶句した。あの人、変人だとは思っていたが、そこまでヤバい奴だったとは。
「『豆腐の角に頭をぶつけて死ぬ』ってのを試そうとして、釘を打てるほど硬い豆腐を作ったこともあったよ」
「釘を打てる？！嘘でしょ……」
莫迦なの？マフィア幹部って莫迦だったの？というかどんな技術だよ怖いな。
中原からはちょっと引いてるくらいにしか見えないAだが、その脳内では、ツッコミが飽和している。
「まあ、そんな奴だから、三百メートルはある本部ビルから飛び降りようなんて思えたんだろうがなァ」
中原は、呆れたような、哀しい声でそう云った。
「私は太宰さんのようにはなれない」
Aは墓石を見下ろして、呟く。
非情になることはできない。演じられるほど器用じゃない。
それに、太宰があの２人に『真実』を伝えたのには、きっと意味がある。この世界にとって、彼らは必要な筈なのだ。
あの２人の記憶を消すのは、不正解だ。
それなら、自分が
「でも、私の異能は万能じゃない」
異能に気付いてからの1年間、Aはそれを研究し続けていた。
Aは、知識の継承が途切れてしまった『忘却の異能』を調べ尽くし、自分の意思で使えるまでになった。
夜月家の異能は強力だった。
忘却の範囲は1人から都市一つ分まで調節可能。
また、消えた記憶の場所には、代わりに適当な記憶が充てがわれる。
これは、不自然な記憶の穴で相手に感づかれるのを防ぐためかもしれない。
だが、A自身の思考癖は天性のもの。その力は、この世界の人間にしては異常すぎる。
例え『真実』に関する記憶を消したとしても、また自力で『真実』に辿り着いてしまう。
夜月Aを『忘却』させるということは、Aが再び真実に至ったそのとき、世界を終わらせてしまうということ。
ただ、ほんの数ヶ月、世界の寿命を延ばすだけ。
世界の崩壊を止めるには、Aがその命を断つしかない。
だが、Aは拒否した。
「それでも私は、生きていたい。私は、貴方のように死ぬつもりはありません」
その目は強く、危うく、光っていた。
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綺月(プロフ) - やっつーさん» ありがとうございます。長い自粛生活もそろそろ終わりが見えてきました。スピードは落ちると思いますが、これからもよろしくお願いします！ (2020年5月20日 16時) (
レス) id: c6edb3b0cf (このIDを非表示/違反報告)
綺月(プロフ) - 桜の下さん» ありがとうございます！作品、拝読させて頂きました。お互い頑張りましょう！ (2020年5月20日 16時) (レス) id: c6edb3b0cf (このIDを非表示/違反報告)
やっつー(プロフ) - 完結おめでとうございます！これからも健康に気をつけて、頑張ってください！ (2020年5月20日 13時) (レス) id: 7ab3b51d33 (このIDを非表示/違反報告)
桜の下(プロフ) - 完結おめでとうございます！とてもいい作品でした！ありがとうございました！ (2020年5月20日 12時) (レス) id: 28ae7de14c (このIDを非表示/違反報告)
綺月(プロフ) - コメント、ありがとうございます。設定や表現は、beast本編を読み込んで、自分らしさと文ストらしさを出そうと作っていった物なので、そう言っていただけて嬉しいです！ (2020年5月20日 10時) (レス) id: 25e76864a2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：綺月 | 作成日時：2020年4月19日 15時
