再訪を希う ページ28
「ここが……」
海の見える、丘の上の墓地。
いくつも並んだ白い墓石。
その中でも昼下がり、大きな木陰に入る石の下に、その人は眠っていた。
「静かだ……見張りの構成員すらいないなんて」
Aは、驚きを込めて小さく云う。
気づいたのか、と中原。
「普通じゃありえねぇが、下手にマフィアの人間を置くと、かえって場所がばれるからな」
この墓地には、一般人も容易に入ることができる。
周囲の何処にも、非合法組織の影など見受けられない。Aだって、中原に連れてこられていなかったら、マフィア首領が眠っているだなんて思わなかっただろう。
Aは、墓前にしゃがんで、手を合わせる。
穏やかな風が吹いていた。
「また、ここに来ていいですか?」
帰り際、Aは墓地の方を振り返って尋ねた。
「当たり前だろ、何の為の遺言だ。他の奴らにはあまり教えんなよ。」
「そいつの身の保証はできねぇからなァ」
ニヤリ嗤う中原。
「ああ、でも」
付け加えるように云って、夕日に染まり始めた、あの日と同じ空を見る。
「そっちの芥川龍之介なんかには、バレたところで襲撃も暗殺も禁じられてるけどな」
まァ、また来てやれよ。
中原は優しく笑う。
マフィアとは思えないような、影のない笑いだった。
「只今戻りましたー」
ビルの前で中原と別れ、
社内のざわめきが一瞬で鎮まる。
頭上に ?マークを浮かべたAが見回す。
そこには、目を見開いて固まった国木田、谷崎、与謝野、それに芥川。全てを予測済みの乱歩だけが、ニヤニヤと笑っている。
「え、どしたの?」
ちょっと引き気味に、Aは呟いた。
途端、国木田の怒声が響く。
「『どしたの?』じゃない!皆がどれだけ心配したと思ってるんだ!」
「す、すみません……」
これに関しては、謝るしかない。適当な報告しかしなかったのだ、全面的にAが悪い。
「大体、マフィアの次期首領とも云われるあの人間に、のこのことついて行く奴がいるか!」
「え、中原さん次期首領……?ああ、今、1番権力もってるから……」
「聞いてるのか!」
国木田の説教は30分近く続いた。Aは、よく喉が枯れないなぁ、と、逆に感心し始める。
事が事、仕方ないと思っていた谷崎や芥川の心の内にも、流石にAへの同情の念が湧いてきていた。
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綺月(プロフ) - やっつーさん» ありがとうございます。長い自粛生活もそろそろ終わりが見えてきました。スピードは落ちると思いますが、これからもよろしくお願いします! (2020年5月20日 16時) (レス) id: c6edb3b0cf (このIDを非表示/違反報告)
綺月(プロフ) - 桜の下さん» ありがとうございます!作品、拝読させて頂きました。お互い頑張りましょう! (2020年5月20日 16時) (レス) id: c6edb3b0cf (このIDを非表示/違反報告)
やっつー(プロフ) - 完結おめでとうございます!これからも健康に気をつけて、頑張ってください! (2020年5月20日 13時) (レス) id: 7ab3b51d33 (このIDを非表示/違反報告)
桜の下(プロフ) - 完結おめでとうございます!とてもいい作品でした!ありがとうございました! (2020年5月20日 12時) (レス) id: 28ae7de14c (このIDを非表示/違反報告)
綺月(プロフ) - コメント、ありがとうございます。設定や表現は、beast本編を読み込んで、自分らしさと文ストらしさを出そうと作っていった物なので、そう言っていただけて嬉しいです! (2020年5月20日 10時) (レス) id: 25e76864a2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:綺月 | 作成日時:2020年4月19日 15時