海の見える墓地 ページ1
ポートマフィア首領・太宰治の死から一年。芥川は日々、探偵社の仕事に勤しんでいた。
あの日以来大した事件もない。妹・銀とはまだ会えないが、焦ってはいなかった。あの人の遺言通りマフィアを辞めたのか、姿を消した中島敦とも会っていないが、まあ、恐らく生きているだろう。
世界は、まだその形を保って、あり続けている。世界の秘密を知るものは、芥川と敦だけだ。
海の見える、丘の上の墓地。
いくつも並んだ白い墓石。
その中でも昼下がり、大きな木陰に入る石の下に、その人は眠っている。
風が吹いていた。
木陰の墓前には、栗色の髪を一つに纏めた少女がいた。
風は少女の淡いスカートを、軽やかに揺らしていた。
「芥川君は、ここには来ないそうです」
墓石に手を合わせ、少女は一人呟く。
少女──Aがその人と出会ったのは、この街にやってきて直ぐのことだった。
「やあ、お隣、いいかい?」
初めて見た。席はまだ空いているのに態々詰めて、美人でも無い人間の隣に座ろうとする人間なんて。
Aは、探偵社の事務員だった。
芥川が先輩社員である織田に拾われ、探偵社に入ったのと同時期にアルバイトとして入社した。
事務員、調査員の違いはあれど、芥川とは同期のようなもの。
そういう縁もあってか、二人は概ね良好な人間関係を築いていた。
だから、聞いていた。
芥川が妹さんを探していることも、妹を攫った黒衣の男を探していることも。
何か手伝えることがないか、とも思っていた。
事務員でも、異能者じゃなくても、Aは探偵社員なのだから。
でも、あの日は、あまりに早すぎた。
ヨコハマに来たばかりで、ヨコハマの危険なんてわかっていなかった。
「喫茶店で偶々隣になった人の素性なんて、探るもんじゃない」
名探偵に憧れて、実際に見てみたくて、探偵社に入った。
喫茶店や電車内。そういった場で、周りの人がどんな人か考える『推理力遊戯』は、もはやAの癖となっていた。
いたるところに包帯を巻いた、長身の男性。
推理しがいのあるその人を、じっと見ていて、怒られた。
しまった、失礼だった。そう思って謝っていたら、
「私がどんな人間か、判ったかい?」
人の良さそうな顔して、そう云って。
「とりあえず変人ってことはわかりました」
そう云ったら、今度は大笑い。
変な人だった。でも、目だけは──
強く、何かを拒絶する色を示していた。
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綺月(プロフ) - やっつーさん» ありがとうございます。長い自粛生活もそろそろ終わりが見えてきました。スピードは落ちると思いますが、これからもよろしくお願いします! (2020年5月20日 16時) (レス) id: c6edb3b0cf (このIDを非表示/違反報告)
綺月(プロフ) - 桜の下さん» ありがとうございます!作品、拝読させて頂きました。お互い頑張りましょう! (2020年5月20日 16時) (レス) id: c6edb3b0cf (このIDを非表示/違反報告)
やっつー(プロフ) - 完結おめでとうございます!これからも健康に気をつけて、頑張ってください! (2020年5月20日 13時) (レス) id: 7ab3b51d33 (このIDを非表示/違反報告)
桜の下(プロフ) - 完結おめでとうございます!とてもいい作品でした!ありがとうございました! (2020年5月20日 12時) (レス) id: 28ae7de14c (このIDを非表示/違反報告)
綺月(プロフ) - コメント、ありがとうございます。設定や表現は、beast本編を読み込んで、自分らしさと文ストらしさを出そうと作っていった物なので、そう言っていただけて嬉しいです! (2020年5月20日 10時) (レス) id: 25e76864a2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:綺月 | 作成日時:2020年4月19日 15時