8話 ページ8
「もっと早く言ってくれればよかったのに」
紫苑の言葉が辛辣に突き刺さる。ネズミは身をすくませ、震える身体を隠すように毛布をかぶった。
何故だ。なぜ俺はこんなに怯えてる。
「しおん、ごめん……めいわくを……。おれが、弱い……から」
「ネズミ?」
――っ違う。何を口走っているんだ俺は。
それでも熱い息と共に、言葉は零れ落ちていく。紫苑の表情は見えない。
「こうなること……朝から、わかってた……」
「ネズミ…」
「でもあんたに…言ったら、ものすごく……心配、するだろうなって…おもった」
「うん」
「心配…されるのが、苦痛で……どうしたらいいのか…わから、ないから……そ、なるくらいなら、ごまかそうと…した…」
「うん」
「でも……今のおれは、熱のせいで何もできなくて…あんたに、されるがままに…世話されてんだ…。それが……どうしてか、素直に、嬉しいって、思った…」
「そっか」
「さっきあんたが…部屋にいなかったとき…こわかった。いつもなら…なんでもないはずの、部屋にひとりで、いることがとてつもなく…応えた」
「うん」
「しおん、おれ…孤独がこわいんだ……どうすればいい…どうすれば……」
いつのまにか、正面から抱きしめられていた。
嗚咽が止まらない。涙の筋がつぎつぎに頬を伝う。リズムよく叩かれる背中が、とても心地よかった。
「お願いだから…どこにも……行かないで…」
それからしばらく、時計の秒針の音と、ネズミのしゃくり上げる声だけが部屋に響いていた。紫苑はネズミが落ち着くまで、背中を撫で続けてくれた。
「……ごめんねネズミ」
無垢な声が耳をくすぐる。
「君に悪いことをした。弱っている時はみんな、誰かに傍にいてほしいと思うものだ。痛くて苦しくて、心細かったよな。ごめん。…もう、大丈夫だから」
ただその声音が、気持ち良かった。息苦しさや寒さまで、安らいでゆく気がする。
迷惑かけてごめん紫苑、あんたがいてよかった――。
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かえで(プロフ) - 人物の話し方も違和感なく、原作の続きを見ているような気分になりました(´∇`)弱ってるネズミ程愛おしいものはないですね、、(⊃´-`⊂)長くなりすみません!本当に素敵な作品ありがとうございました!! (2016年9月29日 13時) (レス) id: cd259e1470 (このIDを非表示/違反報告)
かえで(プロフ) - 最高でした、、!!紫ネズが大好きな私にとってはプロフ名を紫苑にせざるを得ませんでした(´・ ・`)自分のことを僕と言っていたり、ネズミにあんたと呼ばれたり、作者様はわかっている方だなぁと感動していました、、。(続きます(;_;)) (2016年9月29日 13時) (レス) id: cd259e1470 (このIDを非表示/違反報告)
実結(プロフ) - さっちゃんさん» コメありがとうございます!そう言っていただけると、書いてよかったと切実に思います!続きならですね…もしかしたら書くかもしれません。ので、期待せずにお待ち下さい! (2016年5月24日 17時) (レス) id: 58050d279b (このIDを非表示/違反報告)
さっちゃん(プロフ) - すごく面白かったです。 次回作(?)があれば、是非読みたいです!! (2016年5月21日 21時) (レス) id: 721a3cd878 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:実結 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/minoko2
作成日時:2015年7月2日 14時