2話 ページ2
コンコンコン。
戸を叩く音に身体が飛びあがるかと思った。控えめだけれど、どことなく急いている。その音に、じっと耳を澄ませる。
誰だろう、こんな時間に。もっとも、いつも何も言わずに入ってくるネズミでないことだけは確かだ。
紫苑はおそるおそる戸口に近づき、板1枚向こうにいる誰かに声をかけようか迷った。いや、待てよ。さっきから心配していた帰りの遅いネズミが、何らかの理由で中に入ることができなくて、という可能性もなくはない。少なくともそろそろ探しに行こうかと考えていた時だったから。
「お兄ちゃん…あたしだよ、カランだよ」
「カラン?」
かぼそく聞こえてきた、予想外の声に驚く。そういえばカランは今日の昼、家に遊びに来たけれど…。あっ。
紫苑はことを思い出し、ストーブの横に畳んでおいたこども用の上着を手に取る。そのまま戸を開けた。
「これを取りに来たんだろ? カラン、」
これで落着だと思った。夜も遅いから、カランを家に送り届けてから、ネズミを探しに行こう。
…けれど紫苑の目に飛び込んできたのは……。
「お兄ちゃん早く……」
「え、ネズミ!?」
今にも涙をこぼしそうなカランと、その横――戸のすぐそばの壁によりかかり脱力するネズミの姿だった。
「ネズミ、ネズミ。どうした、しっかりしろ」
「私がね、お兄ちゃんのおうちに忘れ物しちゃったからね、おうちに来たらね……」
「カラン、ネズミのこと見つけてくれてありがとう。大丈夫だから泣かないで」
ネズミは見るからに顔が赤く、息も荒い。風邪だとは思うが、いつからここにいたのかわからないため、体力の消耗が怖い。
「ふぇっ、ひくっ…」
「大丈夫だから。カラン、危ないから中へおいで」
抱きしめ、背中をそっとさすっていたカランから腕を離し、ネズミの方へ移動する。部屋の中へ入っていくカランを横目で見送りながら、ネズミの頬を軽くたたいて反応を確認する。
「ネズミ、聞こえるか。ネズミ」
「ハァッ、……うっ…ハッ…し、おん……」
よかった。意識はあるようだ。
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かえで(プロフ) - 人物の話し方も違和感なく、原作の続きを見ているような気分になりました(´∇`)弱ってるネズミ程愛おしいものはないですね、、(⊃´-`⊂)長くなりすみません!本当に素敵な作品ありがとうございました!! (2016年9月29日 13時) (レス) id: cd259e1470 (このIDを非表示/違反報告)
かえで(プロフ) - 最高でした、、!!紫ネズが大好きな私にとってはプロフ名を紫苑にせざるを得ませんでした(´・ ・`)自分のことを僕と言っていたり、ネズミにあんたと呼ばれたり、作者様はわかっている方だなぁと感動していました、、。(続きます(;_;)) (2016年9月29日 13時) (レス) id: cd259e1470 (このIDを非表示/違反報告)
実結(プロフ) - さっちゃんさん» コメありがとうございます!そう言っていただけると、書いてよかったと切実に思います!続きならですね…もしかしたら書くかもしれません。ので、期待せずにお待ち下さい! (2016年5月24日 17時) (レス) id: 58050d279b (このIDを非表示/違反報告)
さっちゃん(プロフ) - すごく面白かったです。 次回作(?)があれば、是非読みたいです!! (2016年5月21日 21時) (レス) id: 721a3cd878 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:実結 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/minoko2
作成日時:2015年7月2日 14時