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私と氷織くんは植物園を出た後、休憩がてらに近くの喫茶店に入った。
私は机に肘を付きながら、氷織くんにもらった物を手の中で転がす。
と、額辺りに視線を感じて私は顔を上げた。
目の前には少し困ったように微笑む氷織くんが。
『……氷織くん?』「ーー自分が贈ったものを大事にされとるの、嬉しいんやけどちょっと恥ずかしいなぁ」
『あっ』私はハッと我に返った。
『もしかして私、にやけてた?』
慌てて口元を押さえると、氷織くんはおかしそうにクスクスと笑う。
「少しでもAちゃんが笑ってくれとったら僕は嬉しいなぁ。笑うことを我慢せんくてもええんよ」
ふんわりとした、優しげな声。
心臓がドキ、と跳ねた。
……氷織くんと話していると彼には何もかもお見通しなんじゃないのか、という錯覚になる。
実際にそうなのかもしれないけど……。
『……氷織くんは、優しいね』
自然と口から心の隅で思っていたことが溢れる。
氷織くんは微かに目を見開いた後。
「……そんなことあらへんよ」
優しい笑みに仄かな陰りを含ませてそう呟いた。
私と彼の間の空気が張り詰めた気がする。
まさか、氷織くん……、怒ってる?
氷織くんはゆっくりと立ち上がると私を見下ろす。
そしてニッコリ笑って言った。
「丁度いい機会やし、Aちゃんと話したいことあるんや。……場所、変えよか」
『っへ……?』
私の喉からは馬鹿みたいな間抜けな声が漏れ出た。
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作者名:メビウス | 作成日時:2023年9月29日 23時