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【Aside】
『……あ、氷織くん!』
声を張り上げれば、彼は私に気付く。
そしてふんわりと微笑みながら私の方に駆け寄ってきた。
「ふふ、Aちゃん、いつもより大きい声やったなぁ。もしかして楽しみにしてくれとったん?」
どこか揶揄うような声色にハッと我に変える。
確かに、いつもより声大きかったかも……。
自然と顔に熱が集まっていくのを感じる。
『ごめん……、はしゃぎすぎた、かも……』
いつもの数倍声が小さくなると、氷織くんはきょとんと目を瞬かせた後、クスクスと口に手を当て目を細めた。
「何で謝るん?Aちゃんのちょっと分かりやすいとこ、僕は可愛いと思うで」
『……っ!』さらりと“可愛い”という単語が出て、息が止まりそうになる。
氷織くんって何気にストレートだよな……。
彼の言動に悶々としていると、徐に手を引かれる。
「ん、ほんなら行こか?」
微かに首を傾げて尋ねられ、私は気を取り直し、頷いた。
『うん……!』
ーー
今日氷織くんと出かける場所は、人がすごくいるような地域ではなく、どちらかといえば年を重ねた人が好みそうな所らしい。
電車に揺られながら、隣に座る氷織くんを見やる。
その横顔は、穏やかでいて、どこか読めない。
「……ん?どうしたん、Aちゃん」
不意に彼がこちらを見た。視線がばっちりと合う。
『ーーうんん。何でもない』
やんわりと笑いながら首を振る。
氷織くんはちょっと困ったように笑みを浮かべて呟いた。
「んー……、Aちゃんって、不思議な子やね。いつもしっかりしとるんに、ふわふわしとるなーって」
『え……?不思議?ふわふわしてる?』
自分には似ても似つかない単語に困惑する。
『それ、褒めてる……?』
恐る恐る聞くも、氷織くんはニコニコと笑って答えてくれない。
え、どっち……?全然読めないんだけど……。
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作者名:メビウス | 作成日時:2023年9月29日 23時