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【冴side】
俺が試合後にいつも見に来る夜景。
隣で珍しくはしゃいだ様子を見せるAがいる。
普段見せることのない笑みを俺に向けてすごく綺麗だ、と言う。
そんな彼女に対し、天邪鬼な思いが芽生え、思わずビルの照明だ、とひねくれた言葉を返してしまう。
多分、目の前のAがいつにも増して、大人っぽく見えたから、柄にもなく動揺していたんだろう。
幼い頃から“色々なこと”を経験してきた所為か、乏しくなっていた筈の感情が微かに溢れた気がした。
(……早く、Aを俺のマネージャーとしてスカウトしたい)
ずっと思っていた。Aが隣にいてくれたら俺の人生がどんなに有意義になるだろう。
俺の中でAはサッカーと同等の価値がある。
昔から俺の体調や怪我の心配をしてくれた。
最初は少し、煩わしく思っていたのも、数ヶ月で消え去っていた。
俺のことを“才能のものさし”で測らなかったのはAのみ。
その事実が当時の自分にとってどれだけ重要なことだったのか計り知れない。
昔のことを思い出していたからか、不意に彼女に問うていた。
“俺は、Aにはどう見える?”
改めて、馬鹿げた質問だったと思う。
そんなことを聞いたとして、俺は俺だ、何も変わらない。
けど、もし昔と同じことを返したら……。
そんな期待が奥深くで眠っていた。
案の定、Aはーー、全く同じことを口にした。
聞いた瞬間、少しの安堵と懐かしさが込み上げる。
(やはりAは何も変わっていない)
聞いた意味や、利益はなかったが代わりに、そのことを確かめることができてよかったと思う。
Aを見つめながら、深くそう思った。
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作者名:メビウス | 作成日時:2023年9月29日 23時