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暫く歩いていても、先刻の人達は諦める様子はない。

段々足音が大きくなり、やがて。

強く腕を掴まれたと同時に、後ろへ引き戻された。

『……!』クルリと自身の体が回転し、視界に腕を掴んできた人が映る。

「あれ、もしかして怯えてる?そんな顔も可愛いね。怖がらなくても大丈夫だよ?ちょっと遊ぶだけだからさ……」

ギリギリと、腕を掴む手がどんどん食いこんでいく。

動けない……、どうすれば……。

私は恐怖で動けずにいると。

「ちょっとおにーさーん」

不意に間延びした声がしたかと思えば、掴まれていた腕から力が消える。
代わりに、体がフワリと包まれた。

あれ、この気配の薄さ……、覚えが。

「え?誰アンタ」目の前の男性は訝しげに眉を顰めて私の頭上を見ている。

すると、直ぐ傍で声がした。

「この子、俺の子。だからさ、ナンパするなら他の子にして」

瞬間、先刻までの気配のなさが嘘のように、痛くなるような殺気を感じた。

「……っ、な、んだよ」男性は吐き捨てるようにして、傍にいた人達と一緒に去っていった。

さすれば、後ろの殺気も消えていく。

ひとまず私はホッと安心していると。

頬に手が置かれ、そのまま見上げさせられた。

『……あ』「やっぱAちゃんじゃん」

私の顔を覗き込んできたのは、緑色のメッシュが入った彼ーー、乙夜くんだった。

『お、乙夜くん?どうしてここに……』

「先刻潔達と会ったんだけど、Aちゃんも来るって聞いたから」

探してたら見つけた、とさも簡単そうに言う。

潔くん達と会った、ってことは合流場所の近くまで来てたんだ……。

自然に長い息が漏れる。ちゃんと到着できたことに安心したからだろう。

と、そんな私の手を引っ張って、乙夜くんは歩き始めた。

その手は決して強く握っている訳じゃないのに、離れないようにしっかりと握られていて。

私は引き寄せられるように、足を進める。

そして歩きながら乙夜くんに聞こえる程度の声量で言った。

『……助けてくれて有難う、乙夜くん』

すると数秒かかって。「……んー」

彼はその一音だけ発したのだった。

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作者名:メビウス | 作成日時:2023年9月29日 23時

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