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何で……。
視界がグラグラと気持ち悪いくらい揺れる。
どうやって私がここにいることを知った……？
それに、
目の前の男は、徐に口を開く。
「翠から聞いたよ。いきなり家を飛び出したんだってね。何度も連絡してるのに一向に反応がなかったから、心配だったよ。とても、ね」
翠は私の母親の名前だ。
父親の物言いに不快感を覚える。
心配なんて微塵もしていないくせに……。
父親はすっ、と肩に手を置いてきた。
「さ、こんなところにいても君には悪環境だ。家に帰ろう」
有無を言わさぬような声。質問の余地すら与えてくれない。
……嫌だ。またあんな家で過ごすなんて……。
気付けば私は。
『……あの、私は『ーー』って名前じゃないです』
そんなことを口にしていた。
抵抗したって無駄だと分かってるから。名前が違っていることを指摘するしかない。
私の名前は『ーー』なんかじゃない。Aだ。
チラリ、と父親の姿を伺うと。
表情は変わりないが、ギュッと私の肩を掴む手に力がこもった。
痛みに思わず顔を顰める。数秒の沈黙の後。
「……おや、まさか人違いだったとは。顔がそっくりだからてっきり『ーー』だと思ったよ」
すまないね、と肩から力が抜ける。
そして流れるように続ける。
「もし、『ーー』と同じ名前の人物がいたら教えてくれないかな？連絡は非通知から掛けてほしい」
私は緊張をおさえながら答える。
『……分かりました』
父親はニッコリ笑った後、その場から立ち去っていった。
あの男は気付いているはずだ。私が本人であることに。
何故ここにいることが分かったのか、どうやって入れたのかは分からない、けど……。
『……っ』私がここにいられるのも時間の問題だろう。
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作者名：メビウス | 作成日時：2023年9月29日 23時
