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黒名くんと話していると、グラウンドの方から足音が聞こえた。
顔を向けると、いつの間にか試合が始まっている。私と黒名くんはきりよく話を中断し、試合を観ることに集中した。
グラウンドでは丁度士道くんが自由な動きを見せていた。
それはまるで、敵も、味方すら困惑させるような動きで。
でも日本代表チームはそれに従うように士道くんにとって都合のいい動きを見せている。
流れるように等々、ゴール前まで来ていた。
冴くんはその場で撃つーー、かと思いきや。
そのボールはゴールではなく……、士道くんの元に届いた。
そこまでの一連の流れは、前半とは全く違うもので……。
士道くんが入るだけでこんなにも違うのだと改めて実感した。
士道くんはボール前でシュートを撃つモーションをした、その瞬間。
が、余りにも不安定な位置だったからか、士道くんと二子くんはまとめてその場に倒れた。
と、審判がピーーッ、と笛を鳴らした。
後に実況解説者の声が響く。
「ああっと！ギリギリで防いだかと思われましたが！これは足への危険なタックル！！“
イエローカード……、退場にはならないけど、これ以降、下手な真似はできなくなる……。
一気に緊張が走るのが分かった。
……日本代表側のフリーキックポイントとなり、冴くんと士道くんの2人がゴール前に立つ。
これが決まってしまえば、同点になってしまう……。
そんなことを考えていると、唐突に士道くんが動き出した。
ボールを蹴るーー、かと思いきや、スルーして直進しだした。
同時にその場にいた冴くんも動き出す。
冴くんはどこに出す気だろう……？
そのままゴール？それともーー。
そんなことを考えている内に、千切くんが走り出しているのが見えた。
それも、士道くんに向かって。
もしかして、パス……？
もしこのまま“普通に”士道くんにパスを出すのならば、千切くんの足の方が速い。
でも冴くんが出すパスは、“普通”じゃないから。
ボールは、千切くんの“最高速到着点の数センチ先”に飛んだ。
当然、ボールの前にはーー。
直進していた士道くんが。彼の撃ったシュートはまるで弧を描くように、ゴールに向かった。
『……これが、』士道くんと冴くんのシュート……。
ゾクリと、背筋が震えた気がした。
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作者名：メビウス | 作成日時：2023年9月29日 23時
