空間と距離【紫】

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朝、辰哉さんが起こしてほしいタイミングに合わせて起きて、辰哉さんを起こす。








「…辰哉さん、起きてください」








辰哉さんの部屋に入ることは許されてない。


だから部屋の外から呼びかける。


でも起きるわけがない。


朝が苦手だから起こしてほしいって言ってるのに、そんな簡単に起きてくるわけない。








「辰哉さん、」








辰哉さんの部屋からは何も聞こえない。


これはいつものことだから慣れた。





10回くらい名前を呼ぶと、少しドアが開いた。








「…おはようございます」


辰「……」


「朝ご飯、どうしますか」


辰「…いる」


「わかりました。今日ゴミ出しなんですけど、」


辰「わかった、」


「…ありがとうございます」








これで朝の会話は終わり。


次の会話は夜までないか、この日はないかのどっちかだ。


それくらい会話は少ない。





朝ごはんの時も会話はなし。


強いて言うなら「いってらっしゃい」と「いってきます」ぐらい。









「いってらっしゃい」


辰「…いってきます」


「あっ、夜ご飯は、」


辰「…どっちでもいい」


「あ、」







と、すぐに出て行ってしまった。





毎回こう。


ご飯いるか聞いても、「どっちでもいい」なんだ。


これは、「仕事遅くならないしご飯あったら食べるけど、別に無理に作らなくてもいい」の略。


そう言ってくれればいいのに、冷たいんだ。


さすがにそっけなさすぎるんだけど…。







辰哉さんが仕事に向かった後は、洗い物、洗濯を済ませ、大学に向かう。


家事をするのは別に苦ではない。


昔から家でやってきたから困ることはないんだけど、もう少し手伝ってくれてもいいのに、なんて思う。





テレビの中や雑誌の中で見せるあの笑顔は、家では見たことない。


ほぼ自分の部屋に閉じこもってるし、プライベートなことは全く知らない。


一緒に暮らしてる意味がわからないほどだ。









「いってきます」








誰もいない部屋に向かってそう言って、大学に向かった。









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