先生と私の夢物語【3年A組】

渡海の隠し事*Ibuki Hiiragi side* ページ11

渡海に絵を描かせると
鉛筆だけのスケッチ画で
パソコンに向かっている男性の絵で…
そういえば昼休みに兄がいるって言っていたな。
その絵は鉛筆だけで描かれた物なのに
優しさが溢れているものだった。




柊『……お兄さんが大事なんだな』

『………』

柊『渡海のこの絵で…お兄さんへの想いがよく分かるよ…
絵のタッチも全て…温かみがある』

『………私がここにいるのは…
お父さんとお母さんと……おにいがいたから…
誰よりも…大事だから』




家族が大事…か…。
じゃあ…この渡海の傷は家庭のものではないだろうし
恐らく学校で出来ているものだろう…。
それを信用している家族にも相談しないのか…?
それに…彼女にはどこか…
諦めているところがあるように感じられる…。
だが…この感じだと早々簡単には教えてはくれなさそうだな…。




柊『………よし、じゃあ…
明日は課題を与える』

『課題?』

柊『……そうだ
渡海の『未来』を描け』

『………』




お前は未来に何を描く…?
すると渡海の表情がマスク越しながらも
動揺しているように見えた。
だが、最終的には彼女はOKを出した。





あと、もう一つ気になったことと言えば…
片付けをしていた時だ。
一瞬、ヒュッと息が詰まるような呼吸が聞こえた。
渡海を見ると、胸辺りを抑え込んで
フラついているように見えたのだ。




柊『渡海?』

『……ふぅー……何ですか?』

柊『今…フラつかなかったか?』

『先生の見間違いですよ』




何事もないかのように振る舞う渡海。
これは…何でもないなんてありえないだろう…。
どうやったら、彼女と距離を詰められるのだろうか…。
まずはそこからだ。
彼女を笑わせるなんて、まだ先の先だ。
決して入り込ませようとしない渡海の背中を見ながら
明日からの行動の取り方を考えるのだった。

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