第壱章 君は愛しいモノノ怪-04- ページ5
『部長、やめてください』
出来るだけ低い声で、ゆっくりとそう言った。冷や汗が頬をぬらす。
…どうしよう、完全に油断していた。
というのも、私がやけに褒められるようになってからというもの、人から何か物をもらうことはあっても襲われることは全くなかった。宗祖のように崇め奉られることはあっても、女性として見られているとはよもや思っていなかったのだ。
部長はニコニコとした笑顔を崩さない。ス、と部長が自身のポケットに手をいれ、身体がこわばる。
「ごめんね、こんなとこで」
『…なにがですか』
「Aちゃんにどうしても今日渡したくて」
ポケットから出されたその手には、小さな箱が握られていた。中を見なくても分かる。指輪だ。すぐに箱が開けられ、学生では到底買えないような大きさのダイヤが露わになった。部長の思わぬ行動に眉を顰める。
『…こんなもの、どうしたんです』
「Aちゃんにあげたくてさ、俺頑張ったんだよ。偉いでしょ?」
『受け取れません、やめてください』
「ね、俺Aちゃんに好かれたくて、がんばってるんだよ」
狭い個室でじわじわと部長が近づいてくる。便器の向こうに逃げれば、それを追って部長が私の手を取った。そのまま頬擦りをされ鳥肌が立つ。
「好き…Aちゃん……俺、何でもするよ…」
部長の呼吸は荒々しく、手にかかる吐息は生暖かくて気持ちが悪い。
『やめ、…やめてください……お願い…………』
恐怖ですくんでしまって力がうまく入らない。大声を出そうとするが、喉がぎゅうと潰れたように圧迫されて、呼吸すらままならなかった。
おかしい。この人はどこかがおかしい。
なんでこうなってしまったんだろう。訳もわからず自然と涙がこぼれた。
いやだ。だれか。助けて。
「誰かいるのか？」
聞き覚えのある声に、ハッと顔をあげる。
『います！ここ…！助けて……！』
出せるだけの声で助けを求めれば、すぐに個室のドアがガンガンと叩かれる。その内ドン、と鈍い音がして、扉が内側に倒れた。
「好き…好、ぎっ！！！！」
そのまま扉は勢いよく部長にぶつかる。壁と扉に挟まれた部長はピクリとも動かなくなってしまった。
「…………………結果オーライ」
外れたドアノブを持ちながら気まずそうにそう言ったのは、キヨさんだった。
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赤の黒犬 - 昔の実況を見ていたら、キヨさんが夢を中々見ないと仰っていて、そこから来たのかなーとか考えられて凄く面白かったです。 (2021年7月1日 0時) (
レス) id: ba80b57016 (このIDを非表示/違反報告)
雨音(プロフ) - 平和組の皆さんが可愛すぎて泣ける!!この物語を見ていると引き込まれていくので時間が短く感じます！頑張ってください！！ (2015年11月2日 0時) (レス) id: 4732783237 (このIDを非表示/違反報告)
咲嶋.ぼ(プロフ) - お話の構成がとてもしっかりしており、凄く引き込まれる作品で 大好きです。更新待っております。 (2015年9月9日 1時) (レス) id: 573b4c2ac8 (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - とても面白いです！たまにはいる挿し絵？も可愛いですね！ これはもう更新しないのですか？ まってます (2015年8月22日 23時) (レス) id: 016ebdc3e0 (このIDを非表示/違反報告)
Χ(プロフ) - 初めてコメントさせていただきます。文章や言葉のチョイスに心を鷲掴みにされました。また随所で入るイラストも私にはドストライクで、この小説と出会えてよかったです。 (2015年8月16日 14時) (レス) id: ffefa26ae0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：宮前
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=miyamaenovels
作成日時：2015年2月9日 17時
