第伍章 鷺は愛を知る-了- ページ40
だからだろうか、結婚や大人に対して俺は幻想を抱けなかった。
人は嘘を吐くし、簡単に俺から離れていく。ならば最初からいない方がいい。愛を与えられなかった俺が自分の子供に愛を与えられるのかも甚だ疑問だった。
きっとそれは俺だけじゃない。他の3人もそうだ。でなければ男臭いこの環境に女の子1人住まわす発想になるわけがない。
『レトさん?』
「ん、おお。どうした?」
『箸が進んでないけど、もしかしてお口に合わなかったです?』
Aちゃんが心配そうな顔で俺を見て、自分がしばらくの間自分の世界に入っていたことに気が付いた。Aちゃんのお椀はもう空になっている。
「ごめん、考え事してた」
『そっか、じゃあ私洗濯物の続きをするので、食器は食べ終わったらシンクに置いといてくださいね』
「いや、俺洗っとく」
『ほんと? ありがとうございます』
Aちゃんはテキパキと食器を片付けて、サッシを開け洗濯物を干し始めた。少しだけ出ている風は彼女の髪を撫ぜて、前髪が大きく揺れる。
俺はAちゃんの煎れてくれたお茶を飲みながら、ほうと息を吐いた。
…もしも俺が結婚したら、休日はきっとこんな感じなんだろうな。
家事をしている奥さんを見ながら新聞を読んで、俺もやるよ、なんて言って手伝って。
結婚するなら料理の上手い奥さんがいいなあ。一緒に食卓を囲んで、おいしいの一言に素直に喜んでくれて。
そう考えるとAちゃんはいい奥さんになるだろうな。料理もうまいし家事も積極的にやってくれる。
『どうかしましたか?』
空になった洗濯籠を抱えて、Aちゃんが戻ってきた。俺がぼーっとそちらを見ていたのが気になったのかそう問われる。
俺は素直に考えていたことを打ち明けた。
「いやあ、Aちゃんと結婚したいなあって思って」
そしたらきっと俺を受け入れてくれるのにという思いから、本心でそう言った。
Aちゃんはなんだか驚いたような表情をした後、あからさまに目を泳がせる。
『あ、…の、いや、私は……っ、全然、…………嬉しいですけど…』
「な、本当にいいお嫁さんになると思うで」
『……っ』
まだ昼にもなっていないのに、何故だかAちゃんは夕日に充てられたように真っ赤になっていた。なんでだろうと思いながらも特に追求することもなくAちゃんはリビングを後にする。
俺が自分の馬鹿な発言に気がついたのは、もっとずっと後になっての話だった。
第伍章 鷺は愛を知る-小噺-→←第伍章 鷺は愛を知る-01-
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赤の黒犬 - 昔の実況を見ていたら、キヨさんが夢を中々見ないと仰っていて、そこから来たのかなーとか考えられて凄く面白かったです。 (2021年7月1日 0時) (
レス) id: ba80b57016 (このIDを非表示/違反報告)
雨音(プロフ) - 平和組の皆さんが可愛すぎて泣ける!!この物語を見ていると引き込まれていくので時間が短く感じます！頑張ってください！！ (2015年11月2日 0時) (レス) id: 4732783237 (このIDを非表示/違反報告)
咲嶋.ぼ(プロフ) - お話の構成がとてもしっかりしており、凄く引き込まれる作品で 大好きです。更新待っております。 (2015年9月9日 1時) (レス) id: 573b4c2ac8 (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - とても面白いです！たまにはいる挿し絵？も可愛いですね！ これはもう更新しないのですか？ まってます (2015年8月22日 23時) (レス) id: 016ebdc3e0 (このIDを非表示/違反報告)
Χ(プロフ) - 初めてコメントさせていただきます。文章や言葉のチョイスに心を鷲掴みにされました。また随所で入るイラストも私にはドストライクで、この小説と出会えてよかったです。 (2015年8月16日 14時) (レス) id: ffefa26ae0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：宮前
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=miyamaenovels
作成日時：2015年2月9日 17時
