第肆章 鼬の習性-了- ページ34
『つわはす、さん』
｢…一人にさせてごめんな｣
つわはすさんが優しく笑って私の背中を撫でる。風で乱れたつわはすさんの前髪を撫で付ければ、つわはすさんは恥ずかしそうにありがとうと呟いた。
*
『…
無事に買い物が終わった帰り道、ふたりで同じ買い物袋を片一方ずつ持って帰りながら私はつわはすさんにそう聞いた。
鎌鼬は風によって人を切りつけて、薬によってそれを小さい切り傷にする妖怪だ。
｢そう。俺は自由に風を起こせるし、傷を治す薬の作り方も知ってる｣
『そっか、だから…』
あのとき店内で風が起こったのはつわはすさんの意思だったのか。
｢それよりごめんな、…数珠、Aちゃんには弱かったみたいだな｣
つわはすさんが申し訳なさそうに頭を下げる。私は必死で頭を横に振った。
『いや、つわはすさんのせいではないです、もとはと言えば私が狐を抑えられないのが悪いので』
｢これからはAちゃんになんで狐が憑いたのか、ちゃんと調べないとだな｣
『モノノ怪って治るものなんですかね、』
私がそう問えば、つわはすさんは歩みを止めた。私も出そうとしていた足を止め、つわはすさんをみる。つわはすさんのキリッとした目が私を見て、私は視線を逸らせない。
｢なあ、｣
『…はい』
ゴクリ、と覚悟を決めたようにつわはすさんの喉仏が動いた。
｢もし、もしも狐が治ったとき、Aちゃんは、――――――…｣
そこまで言って、つわはすさんは何かを言い淀むように下を向く。
夕日に色付けされたつわはすさんの髪が揺れ、伏せた目からは長いまつげがそよいでいた。
｢…なんでもない、行こうか｣
『、はい』
前を向けば二人分の影が道路に伸びている。ふたりとも何も喋らなくなって、けれど朝感じたような気まずさは全くなかった。
もしも狐が治ったら、つわはすさんは私にどうしてほしいのだろうか。
それを聞く勇気はまだ私にはなくて、あともう少しこの心地よい沈黙を続けていたくて、私は何も言わなかった。
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赤の黒犬 - 昔の実況を見ていたら、キヨさんが夢を中々見ないと仰っていて、そこから来たのかなーとか考えられて凄く面白かったです。 (2021年7月1日 0時) (
レス) id: ba80b57016 (このIDを非表示/違反報告)
雨音(プロフ) - 平和組の皆さんが可愛すぎて泣ける!!この物語を見ていると引き込まれていくので時間が短く感じます！頑張ってください！！ (2015年11月2日 0時) (レス) id: 4732783237 (このIDを非表示/違反報告)
咲嶋.ぼ(プロフ) - お話の構成がとてもしっかりしており、凄く引き込まれる作品で 大好きです。更新待っております。 (2015年9月9日 1時) (レス) id: 573b4c2ac8 (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - とても面白いです！たまにはいる挿し絵？も可愛いですね！ これはもう更新しないのですか？ まってます (2015年8月22日 23時) (レス) id: 016ebdc3e0 (このIDを非表示/違反報告)
Χ(プロフ) - 初めてコメントさせていただきます。文章や言葉のチョイスに心を鷲掴みにされました。また随所で入るイラストも私にはドストライクで、この小説と出会えてよかったです。 (2015年8月16日 14時) (レス) id: ffefa26ae0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：宮前
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=miyamaenovels
作成日時：2015年2月9日 17時
