第壱章 君は愛しいモノノ怪-03- ページ4
がやがやと居酒屋独特の騒がしさが耳につく。隣で部長や他の男性がしきりに私に話しかけているが、その煩さでほとんどかき消されてしまっている。だからと言うこともあってか、私の視線はずっとキヨさんを捕らえていた。
キヨさんは同期のグループでわいわいと楽しげに喋っている。私には決して見せなかった笑顔を簡単に振りまくキヨさんは、サークル内では女嫌いで有名だそうだ。
だからだろうか、キヨさんだけが私に厳しいのは。
もしかしたら、あの人は私を特別扱いしないでいてくれるかもしれない。私が私であるというだけで褒められるこの状況を、今の私の環境を、キヨさんは変えてくれるかもしれない。おかしいだろこんなの、と皆に指摘してくれるかもしれない。
話を聞くにキヨさんは役職こそないもののサークル内で結構な発言権を持つ人だった。その人が何か一石を投じてくれるなら、私の違和感もなくなるかもしれない。もう藁にも縋るような思いだった。それほどに、私は日々の生活に疲弊していたのだ。
「Aちゃん、どこ見てんの」
耳元でそう言われて、はっと声のするほうを見る。部長がニコニコとこちらを見ていた。
『すみません、ぼーっとしてました』
「そうなんだ、可愛いね」
『いや、はは…』
もう可愛いと言う単語も、素直に喜べなくなっていた。私が何か言葉を発するだけで追随するように生まれるその褒め言葉を気持ち悪いとすら思うようになっていた。カワイイ、キレイ、Aチャンガイチバン、毎日毎日そう聞かされて、いちいち真に受けていられるほど私ものんきじゃない。
「Aちゃん、同期の男が酔いつぶれちゃったみたいで、ちょっと手伝って欲しいんだけど」
『え、どこですか』
「男子トイレなんだけど、いいよね」
『え、や』
部長の有無を言わせぬ物言いに、あれよあれよと気付けば席を立たされていた。男子トイレに女が入っていいものかと思ったが、緊急事態のようだし仕方がない。
『部長、お店の方にお冷とかいただけますかね』
「はいはい」
ここだと言われつれてこられた男子トイレの個室をあけながら後ろにいる部長にそうお願いする。さてどんな状況かしらと個室を覗けば、そこには誰もいなかった。
『あれ、ここじゃないみたいですよ』
「いいのいいの」
トン、と背中を押され体勢が崩れる。やばい、と思ったときには施錠の音が個室内に響いた。個室の中には私と部長の二人だけ、個室トイレの扉は部長によってふさがれている。
第壱章 君は愛しいモノノ怪-04-→←第壱章 君は愛しいモノノ怪-02-
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赤の黒犬 - 昔の実況を見ていたら、キヨさんが夢を中々見ないと仰っていて、そこから来たのかなーとか考えられて凄く面白かったです。 (2021年7月1日 0時) (
レス) id: ba80b57016 (このIDを非表示/違反報告)
雨音(プロフ) - 平和組の皆さんが可愛すぎて泣ける!!この物語を見ていると引き込まれていくので時間が短く感じます！頑張ってください！！ (2015年11月2日 0時) (レス) id: 4732783237 (このIDを非表示/違反報告)
咲嶋.ぼ(プロフ) - お話の構成がとてもしっかりしており、凄く引き込まれる作品で 大好きです。更新待っております。 (2015年9月9日 1時) (レス) id: 573b4c2ac8 (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - とても面白いです！たまにはいる挿し絵？も可愛いですね！ これはもう更新しないのですか？ まってます (2015年8月22日 23時) (レス) id: 016ebdc3e0 (このIDを非表示/違反報告)
Χ(プロフ) - 初めてコメントさせていただきます。文章や言葉のチョイスに心を鷲掴みにされました。また随所で入るイラストも私にはドストライクで、この小説と出会えてよかったです。 (2015年8月16日 14時) (レス) id: ffefa26ae0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：宮前
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=miyamaenovels
作成日時：2015年2月9日 17時
