第壱章 君は愛しいモノノ怪-10- ページ11
バタン、と扉が閉められて、私は独りぼっちになった。
まだぬめっとした感触が残っている私の右手を見る。
あれ、男の人の…………だよね?
自覚した途端ぞわりと鳥肌が立った。
やだ、なんで、こんな……これも、モノノ怪のせいなの?
そう考えると一人でいるのが怖くなって、縋るようにドアノブに手をかける。再度いやな感触がしたが一人でいるよりはましだった。
『キヨさん、キヨさ、』
「馬鹿! 開けるなって言っただろ!」
扉を開けて目に入ったその光景は、いつもの私の部屋ではなかった。
ぐちゃぐちゃに汚されて、衣服は散乱と散らばり、そしてドアノブについていたような白濁液がそこら中にこびりついている。
きっとこの量は一人ではない。不特定多数の誰かの――――――…。
『やだ、なにこれ…どうして…』
思考がうまくまとまらない。呼吸が浅くなる。
「おい、見るな」
『怖い、やだよ、もうやだ…っ、』
「おい、!」
自然と涙があふれてきた。あまりの恐怖でうまく立てない。とうとう私は玄関にへたり込んだ。
「大丈夫だから、落ち着けって」
『っう、や、…怖いよ、助けて…』
ガクガクと体が震えるのがわかる。誰がやったのか、どうやって入ってきたのか、わからないことが多すぎて恐怖が膨らむ。
「なあ、お前」
『やだやだやだ、なんで、どうして…、っ』
キヨさんが必死に私を宥めるが、私はうまく呼吸ができない。
「A、」
不意に優しい声で名前を呼ばれて、反射的に声のするほうを見る。気が付けば、キヨさんが私を抱きしめていた。
『キヨ、さ』
「ほら、落ち着けよ。大丈夫だって言ってんだろ」
ゆっくりと背中を撫でられて、呼吸が落ち着いていく。
「この部屋は俺が処理しておくから、いったん帰るぞ」
『…はい』
抱きかかえられるように支えられて、私はキヨさんの車に戻った。
*
車内に入るとキヨさんがウエットティッシュを差し出してくれる。
「家帰ったら、シャワー浴びていいから」
『すみません、キヨさんも…触ったのに…』
同じようにドアノブを触って部屋に入ったなら、同じように手に液が付着したはずだ。それなのにキヨさんは私を優先してくれる。それが申しわけなくて謝った。
「お前な、こんな時に人のこと考えてどうすんだよ」
キヨさんが呆れたように笑ってポフンと頭をはたく。
初めて私の前でキヨさんが本気で笑うところを見た、気がする。
第壱章 君は愛しいモノノ怪-了-→←第壱章 君は愛しいモノノ怪-09-
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赤の黒犬 - 昔の実況を見ていたら、キヨさんが夢を中々見ないと仰っていて、そこから来たのかなーとか考えられて凄く面白かったです。 (2021年7月1日 0時) (
レス) id: ba80b57016 (このIDを非表示/違反報告)
雨音(プロフ) - 平和組の皆さんが可愛すぎて泣ける!!この物語を見ていると引き込まれていくので時間が短く感じます！頑張ってください！！ (2015年11月2日 0時) (レス) id: 4732783237 (このIDを非表示/違反報告)
咲嶋.ぼ(プロフ) - お話の構成がとてもしっかりしており、凄く引き込まれる作品で 大好きです。更新待っております。 (2015年9月9日 1時) (レス) id: 573b4c2ac8 (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - とても面白いです！たまにはいる挿し絵？も可愛いですね！ これはもう更新しないのですか？ まってます (2015年8月22日 23時) (レス) id: 016ebdc3e0 (このIDを非表示/違反報告)
Χ(プロフ) - 初めてコメントさせていただきます。文章や言葉のチョイスに心を鷲掴みにされました。また随所で入るイラストも私にはドストライクで、この小説と出会えてよかったです。 (2015年8月16日 14時) (レス) id: ffefa26ae0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：宮前
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=miyamaenovels
作成日時：2015年2月9日 17時
