第漆章 貉は己に戻れない-了- ページ3
「、A、ちゃん？」
驚いて体にぎゅっと力を入れればAちゃんはそれを解すように強く抱きしめてくれる。
『大丈夫だよ、大丈夫。だって私貴方がすごく努力していることを知ってるもの。いつもはヘラヘラしてるけど、影で努力してるって知ってるもの』
「………うん、」
『前だけ向いて先ばっか見てたら疲れちゃうよ。たまには足元見たり後ろ向いたりしたらいいんだよ。そしたら自分の努力しか見えないし、自分の頑張ってきた足跡が見えるから』
彼女の背中に手を回せば細い体は更に僕にくっついた。とくとく動くAちゃんの心臓の音が体に響いて心地いい。
『よく頑張ったねえ、もう大丈夫だよ。絶対上手くいく』
Aちゃんのはっきりとした物言いに心が掬われたみたいに軽くなる。彼女の肩は僕の涙でびしょびしょに濡れていたけど、それでも彼女は嫌な顔ひとつ見せなかった。
僕が嗚咽している間もAちゃんは黙って僕の背中を撫でてくれる。僕がようやく平静を取り戻せたのはそれから十数分経ってからだった。
「…ごめん、なんか、みっともないとこ見せてもうたな」
『ううん、そんなことない。今度はちゃんと、辛くなる前に話きかせてね』
「ん、そうする…ありがとう」
笑いながらAちゃんの頭を撫でるとAちゃんは恥ずかしそうに顔を真っ赤にさせた。
大学院だけじゃない。きっとAちゃんとの関係だって僕は一番じゃない。
けどそれがなんだっていうんだ。
*
彼はもう一度ありがとうとお礼を言って二階の自室に向かっていった。先ほどの鬱々とした背中に比べたら少しはシャンとしているようで、一気に安心する。
それとともに彼が居なくなって急に熱さを増す頬にフルフルと頭を振った。
あの時は勢いで抱きしめてしまったけど、流石に平常心ではいられないのだ。
普段聞けない彼の弱った本音を、震える心音を、思い出すだけで恥ずかしくなってくる。
『……ぴーちゃん、頑張れ』
どうやら私は狐のおかげで少しだけ嗅覚が良くなったらしい。ぴーちゃんの香りを充満させたレトルトさんに、彼が見えなくなってからそう声をかけた。
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赤の黒犬 - このほんわかした世界観とモノノ怪というダークな感じが相まって最高です。キャラの能力も個性を捉えているし、夢主の性格も女々し過ぎず、強がり過ぎずで超好きです! (2021年8月26日 2時) (
レス) id: 514ce3668f (このIDを非表示/違反報告)
ゆり(プロフ) - 初めまして！とても面白くて自分の好みです！もう更新されないのですか？急かすつもりはないのですが、続きを読みたくてコメントさせていただきました。私の中の大好きな作品です(*´ω`*) (2017年10月25日 1時) (レス) id: 65cdfd6af1 (このIDを非表示/違反報告)
はく - お久しぶりの更新ですね。あ、申し遅れました。自分ははくと申します。コメントはしませんでしたが、前から読ませていただいてました。文章の書き方が好きです。 (2016年8月31日 20時) (レス) id: c1ae332ddd (このIDを非表示/違反報告)
ハル@チョコレート食べたい系女子(プロフ) - このお話とても大好きで何度か読み返したりしてます！ 久し振りの更新とても嬉しいですー(^o^) これからも頑張ってください！ (2016年8月31日 16時) (レス) id: 0930a1d22b (このIDを非表示/違反報告)
ぱっぱか(プロフ) - 久しぶりの更新、お待ちしてました…！この作品が本当に素敵で大好きなので、更新がまた始まるのがとても嬉しいです！日々の楽しみにさせていただきます。 (2016年8月31日 7時) (レス) id: 30b8db8aba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：宮前
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=miyamaenovels
作成日時：2015年12月14日 2時
