第捌章 件の一件-16- ページ19
キヨさんは何かを言おうとして私の顔を見るが、すぐ諦めたように下を向いてしまう。
言いづらいこと、なんだろうか。
『―――…私とペアじゃない方が良かったですか？』
紡ぐ言葉が見つからなくて思わず直接的な物言いになる。
キヨさんは私の問いに少しだけ驚いたような顔をした後、はあとため息をついた。
うまくいかない。いつも貴方との会話はうまくいかない。
焦って空回りして困らせて。こんなことがしたいわけじゃないのに。
「…いつもこうだな、俺ら」
『え…？』
ふとキヨさんが諦めるように笑って、私は思わず聞き返した。
「俺らっていうか、俺だけか」
『…何が、ですか？』
「―――お前の前だと、いつも言いたいことがうまく言えない」
キヨさんがこぼした本音は、確かに私も感じていたものだった。
同じ気持ちだったのかと驚く半面、キヨさんもこのもどかしさを感じているのかと期待してしまう。
キヨさんは足をとめた。ジャリ、と土を踏んだ音がなぜかとても大きく聞こえる。
「俺、お前以外にまともに喋れる女なんか居ないんだよ」
『…そう、なんですか』
「だからお前とペアが嫌だとかじゃない」
今までにないくらい真っ直ぐなキヨさんの言葉に、どきりと心臓が高鳴る。
「…A、さあ」
『はい』
覚悟を決めたようにキヨさんがこちらを向いて私はごくりと唾をのんだ。
「Aには言ってなかったけど、俺、遅生まれなんだよね」
『…なるほど』
なぜ彼は急に誕生日の話をし始めたのだろう。祝うにしても半年も先だし、これから紡がれる言葉に何の意図があるのだろう。
キヨさんはどう受け取ったらいいか戸惑っている私に構わず続ける。
「Aは浪人とかしないで現役で入ったんだよな」
『あー、はい。ストレートです』
「だから俺ら、学年こそ違うけど実は同い年なんだよ」
『…、そうです、ね？』
そこからキヨさんは何も言わない。
縋るようなキヨさんの視線に、汲み取れない自分が悔しくなってくる。
もどかしそうに下唇をかむキヨさんに申し訳なさで死にたくなった。
「…ああ、違う、これじゃ駄目なんだよな」
思ったような反応が得られなかったのか。ハアとため息を一つついてキヨさんは頭をガシガシと掻く。
『…すみません』
「違う、こっちの話」
今度はふうと決心するように息を吐いて、キヨさんはもう一度こちらに向き直る。
終わり
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赤の黒犬 - このほんわかした世界観とモノノ怪というダークな感じが相まって最高です。キャラの能力も個性を捉えているし、夢主の性格も女々し過ぎず、強がり過ぎずで超好きです! (2021年8月26日 2時) (
レス) id: 514ce3668f (このIDを非表示/違反報告)
ゆり(プロフ) - 初めまして！とても面白くて自分の好みです！もう更新されないのですか？急かすつもりはないのですが、続きを読みたくてコメントさせていただきました。私の中の大好きな作品です(*´ω`*) (2017年10月25日 1時) (レス) id: 65cdfd6af1 (このIDを非表示/違反報告)
はく - お久しぶりの更新ですね。あ、申し遅れました。自分ははくと申します。コメントはしませんでしたが、前から読ませていただいてました。文章の書き方が好きです。 (2016年8月31日 20時) (レス) id: c1ae332ddd (このIDを非表示/違反報告)
ハル@チョコレート食べたい系女子(プロフ) - このお話とても大好きで何度か読み返したりしてます！ 久し振りの更新とても嬉しいですー(^o^) これからも頑張ってください！ (2016年8月31日 16時) (レス) id: 0930a1d22b (このIDを非表示/違反報告)
ぱっぱか(プロフ) - 久しぶりの更新、お待ちしてました…！この作品が本当に素敵で大好きなので、更新がまた始まるのがとても嬉しいです！日々の楽しみにさせていただきます。 (2016年8月31日 7時) (レス) id: 30b8db8aba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：宮前
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=miyamaenovels
作成日時：2015年12月14日 2時
