過去への追想 ページ4
コツコツと音を立てながら、杖を持った少年が道を進んでいく。ここは白鳥沢学園高校。Aはそこに入学することになった。
Aは中学生の時から白鳥沢に通っていたので、所詮持ち上がりというやつだった。スポーツ推薦や一般入試で入学する生徒もいるが、それは微々たるもので、ほとんどの生徒が中学校からの持ち上がりである。
そのため、中学からの代わり映えのしない面子になると思うと、Aはつまらないような気持ちになる。勿論、怪我のことを知っている分、他人よりも安心するような気持ちにもなるのだが。
ふと、Aは、1つ年上の幼馴染に思いを馳せた。白鳥沢のバレー部で活躍しているAの大切な幼馴染。そんな幼馴染は、中学2年の事故からAに対して過保護になった。幼馴染が自分に構ってくれることは嬉しいが、やはり、恥ずかしいと思う気持ちもある。
1つしか歳は違う筈であるのに、幼馴染はまるで保護者のようにAに接するのだ。思春期に入っているAが複雑な気持ちになるのも無理はないだろう。
それでも、Aは幼馴染に対して文句を言うことはない。なぜなら、幼馴染がAに対してそう接する理由に心当たりがあるからだ。だからこそ、Aは幼馴染の過保護ともいえる対応を許している。
Aは満足に動かなくなった右脚を見つめた。杖が無い状態でも歩けるまでには回復はした。しかし、右脚へ負荷がかかるということから杖を使っている。
「……」
何度も悔しいと思った。あんな事故さえなければと夢想したこともあった。それでも、もうコートに立つことが出来ないという現実は変わらない。
トスを上げれないセッターなど、約立たずでしかなかった。しかし、幼馴染はAの傍にいてくれた。幼馴染がどんな感情でいたのかは分からない。ただ、Aを支えてくれたことだけが事実だった。
だからこそ、Aはコートに立てないという現実を受け入れ、マネージャーとしてバレーに関わろうと思っていた。簡単には割り切れ無いし、まだコートに立ちたいという渇望はAの中で燻っている。
Aは首を緩く振ると、暗い感情を振り切るように足早に校舎へと向かった。
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作者名:柊花 | 作成日時:2022年8月27日 19時