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「望月さーん。返却本の整理、お願ーい」


『はーい』



あの頃はまだぴちぴちの13歳だった私も、今はもう成人式を迎えて大学を卒業し、社会人一年目の23歳。


人生はまだまだこれからだと言うけれど、どうも輝ける時期は終わった気がしてならない。


実際、高校も大学もこれといったスクールライフは送っていない。

友達は増えたにしろ、恋愛はどれも上手くはいかなかった。


多分私は、心のどこかで、まだあの人のことを想っている。

毎日、色んな話をして、色んな顔を見せてくれた、彼のことを。


そして、どこかできっと探している。

名前も、年齢も、住所も、顔もよく覚えていない、あの日宇宙になりたいと言った、あの少年を。


ここに就職したのも、そのせいだ。我ながら不純な理由だとは自覚しているつもりだ。


私は今、幼い頃によく通っていた”あの”図書館で、司書として働いているのだから。



『……っと、』



返却ボックスに溜まった本を元の場所に戻すため、私は一気に本を持ち上げ、両手いっぱいに抱えて特定の場所に移動しようとした。


その時ふらりと足がもつれ、その拍子に本がぐらりと危なっかしく横に揺れる。

間一髪で支えてくれたのは同じ職場の男性。



「だから、なんでいつもそんな大量に持つねん。危ないって言ったやろ」


『あ、ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ?私、力には自信あるんで』



本を一旦近くの机に置いてからガッツポーズを見せると、彼は何も言わずに溜め息を吐いた。


彼は重岡さんといって、主に天体観測所の方で働いている人だ。


いつも黒縁眼鏡をかけていて、長い前髪は払おうともせず目元までかかったまま。故に、正直あまり顔が見えない。

確か、私より3つ年上だった気がする。だから、25歳か。見た目はもう少し若く見えるが。



「これ、どこまで?」


『…え!?い、いいです!自分でできます』


「ええから。もし落として迷惑かけるのはお客さんやろ」


『……う』



そう言って、重岡さんは慣れた手つきで本を持ち上げ、じっと私を見下ろす。



『…す、すみません。ではお言葉に甘えて…、』


「早く。重い」


『こ、こっちは児童文庫で、こっちは社会論の棚です!』



淡泊なところは、相変わらずだなぁ。

ここに来てから今までずっと、彼とは一向に距離が縮まらない。


ただの仕事仲間といえばそれで終わるのだが、せめて仕事仲間としてでも仲良くできたらな、とは思う。




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葉月(プロフ) - しげええええええ泣 (2018年1月22日 22時) (レス) id: 976831957c (このIDを非表示/違反報告)
クリームパン(プロフ) - 完結おめでとうございます!!!もう最後の最後まで感動しました泣なんて素敵な作品なんでしょうか、こんな作品を読めてもう幸せですっ!これからも応援してます!! (2017年12月22日 17時) (レス) id: 69d39ba2c0 (このIDを非表示/違反報告)
ありさか - 藤井さんの小説からまた来ました !!! とても楽しみにしてます( ; ; ) (2017年10月24日 23時) (レス) id: f77e20ba12 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:みやび | 作成日時:2017年10月24日 5時

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