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「Aって1番最初に慣れたの誰なん?」

試合が終わり、ロッカールームで着替えていた春兎に中川が問う。春兎は自身の完成しきれていない薄っぺらい体を見、彼の引き締まった体を見比べて内心ひっそりと落ち込んだ。

「福也さんです。あの人優しいから。」

「あー。あー、何となくいち早く慣れそうなの分かるわ。」

一旦受け入れた後、納得したように声を上げた彼がおかしくて思わず笑ってしまう。
そんな春兎につられて彼も笑えば、楽しげな声がロッカールームへと反響する。
やはり、山崎以外には人当たりが良く心も開けており、会話能力も十分すぎるくらいだ。

「福也さん、撫でるの上手くて眠くなるんですよ。…他球団行っちゃったの、ちょっと寂しいです。」

「…じゃあ、次撫でるのはそーいちにしてもらったら?」

「うえ、いっ、嫌です、嫌。」

「何がそんなに嫌なん。俺だけに教えてよ。」

良い先輩の理想像すぎる彼は、私服へと着替え終えれば流れるように春兎の隣に移動して声量を落とす。
シャツを手に、俯き加減の春兎の後頭部をじっと見下ろす。重力に従ってハラハラと枯れ色の毛先が床に向かって落ちていく為、思わず手を伸ばした。

指先でそっと髪に触れ、彼が頭を委ねてくると手の平で何度も撫でてみる。

「…颯一郎さん、距離が無いっていうか、嫌だって言ってるのに驚かしたり追い回したりするから…嫌です。」

「あー、んふふ。確かに、言われてみれば。」

「ジュースはくれるし話しかけてくれるのは、全然苦じゃないんですけど…何せ声がデカい。」

下瞼を上げ、三日月形になった瞳を見て中川はくつくつと声を殺して笑う。
確かに兎は大きな音が苦手だ。怖がりでビビりな春兎も確かにそうだと感じたのだろう。

中川で影になり隅に追いやられた春兎だが、何処と無く居心地が良さそうで中川は小さく微笑む。

「由伸は?話したりとか。」

「由伸さんはよく気にかけてくれてました。洋服貰ったりご飯連れて行ってもらったりしましたもん。」

彼もまた海を渡ってしまった為、春兎の心に寂しさが募る。
着替えを終えた春兎はカバンに必要最低限の荷物を無造作に押し込めば、リュックを背負った。

「帰ります!」

「サロン寄らんの?」

「早く帰りたい気分。」

「ふふ、欲に忠実。」

中川はもう一度春兎の頭を髪に沿って撫で、「また明日。」と彼の背中を押してやった。

「お先でーす。」

と彼にも他の選手らにも挨拶をすると、パタンと扉を閉じた。

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作者名: | 作成日時:2024年3月24日 13時

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