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ドームに流れ込む空気はどれもこれも暖かくて、明るい緑の人工芝を1人で歩いていた。ネットが置かれただけの練習前の空間は広々としていて、気兼ね無く散歩が出来る。
そんな時、ダグアウト方向から物音がして振り返った。
相手球団の選手が道具を持って来ており、思わずじっと見つめてしまう。
「……あー！！」
春兎の視線に気が付いた彼は、白く長い腕を伸ばし指をさして大きな声を上げた。
ビクッと肩を竦め、会釈してみれば彼は興味が湧いたのか春兎の方へと長く速い脚で駆けて来た。
「うわっ、うわ！！いやだ！！」
栗色の髪を靡かせながら向かって来る彼に恐怖し、たったそれだけの言葉を発せば春兎もまた逃げ出してしまった。
「待って待って！」
と背後から追い掛けて来る彼は多少なりとも手加減をしながら、白い歯を見せて逃げ惑う春兎を追い掛け続ける。
彼が本気を出せばあっという間に手は届くはずなのだが、この状況が面白いのだろう。脚の速い春兎は必死に逃げ、振り返ってまだ追って来ている事に半べそをかいていた。
春兎の絶叫と、それを受けた周東の声高らかな笑い声がドーム全体へ響き渡り、ダグアウトに顔を出した選手は追い掛けっこの最中である2人を目で追う。
「あれ、A大丈夫ですかね。」
ペットボトルを手に見つめていた中川は、隣に居た小田に問い掛ける。
彼は首を捻りながら「どうやろ。」と呟くだけだった。
聞こえてくる絶叫は涙声で、必死に脚を動かしても背後の周東は余裕そうに追い続ける。
まるで野ウサギを追い掛けているようだ。
子供の頃からあんな事をしていたから周東の脚は速くなったのだろう。
じっと見つめていれば、相手球団の1人が春兎の向かって来る方向へと立って腕を伸ばす。
その姿を見た瞬間彼に飛び付き、背後に隠れてしまった。
「うあぁ…。」
「泣いてるじゃないすか…。」
「だって逃げるから追い掛けたくなるじゃん。」
同じ年齢の正木とは渡部を混じえてよく話す仲の為、逃げ隠れする障害物として扱っていた。
背中に顔を埋めて強く強くユニフォームを握る春兎の手をさすりながら、口を尖らせる周東に扱い方を説明する。
「ごめんって、仲良くしたかっただけ。」
謝罪をする周東を一瞥する春兎だが、すぐに顔を背けた。完全に苦手意識を植え付けてしまったようだ。
ブルブルと震える春兎を落ち着かせようと頭を撫でる正木の腹に腕を回し、周東から顔を背けてしまった。
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作者名：宮
| 作成日時：2024年3月24日 13時
