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春の宮崎には毎日のように春兎の絶叫が響き渡っていた。
それも原因の全てが山崎で、逃げ惑う姿を見て大きな口を開けながら笑っている。
春の気配が近付く2月下旬。
春兎は山崎に慣れないままキャンプを終えた。声が大きい杉本や福田でさえ、背後から驚かせたり追い掛け回したりと嫌がる事をしなかった。
「皆と仲良くなれた？」
月が変わって、世間は別れの時期から少し経った。
春休みにも突入し、球場も子供の姿が多い事がひと目で分かる。
空気は桃色で花粉も舞い始める厄介だが心地好い季節、球場にやって来た春兎へ渡部が問う。
「皆優しいから仲良くなれた…とは思う。でも颯一郎さんとは全然。」
「いつも逃げてるもんね。」
「あの人から追い掛けられるのが本当に怖くてさ。」
30cm近く身長差のある大男から追い掛け回されるのは相当な恐怖だろう。長い廊下を春兎の隣に並んで歩みを進める渡部は、「分かるけどね。」と眉を下げて困ったように笑う。
オープン戦も終盤に差し掛かっていた。
気温もキャンプ中に比べると随分高くなり、日中は上着も必要無いくらいになっている。
「投げやすさってやっぱり違う？舞洲と京セラ。」
「何となく、京セラの方が緊張するかな。」
「舞洲は？」
「うーん。太陽が眩しいなって事しか思ってないよいつも。」
特に何も考えていなくてあの成績なのか、と渡部は変な気持ち悪さに笑い、今日もまたロッカールームの扉を開ける。
低い温度設定で循環する暖房に心地好さを感じながら、春兎は壁際の自身のロッカーにカバンを置く。
左隣のロッカーに貼られた " 山崎 " の名を見てほんの少し嫌悪するが、彼は今日も舞洲だ。
安心を覚えながらユニフォームに着替え、ラベルが剥がされたペットボトルの水を口に含む。
「おぁ、2人ともはや〜。」
ロッカールームに顔を出した宗は
「今日オープン戦最終日だけど、どう？」
「どう？ってなんですか。」
「今月末からはシーズン始まるからさ。どう思ってんのかなーって。」
陽気で誰にでも話しかけられる宗は、着替えを終わらせた渡部と春兎へと問い掛ける。
「今季もシーズン終了まで早そうっすよね。」
「僕も思うそれ。」
渡部の返事に同意した春兎を見て宗は笑う。
「自分の意見を持て、自我をー。」
「これも立派な意見ですー。」
舞洲での生活と同様に、先後輩分け隔て無く会話が出来るようになった春兎を見て渡部は安堵していた。
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作者名：宮
| 作成日時：2024年3月24日 13時
