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ブルペンに立つ春兎は誰よりも小さく、その立ち姿にファンは笑いながら " 可愛いんだけど " とカメラを向ける。
同じ空間にいた投手らも自身の爪を見たり、他の投手と会話をしたりと時間を過ごしていたのだが、ミットから鳴る破裂音に場は静まり返った。

足元に落ちたキャップを手に取り、土を払って点を仰ぎながら被り直す。

「ナイスボール!」

ブルペン捕手の言葉と共に返された白球をしっかりとグラブで受け止め、プレートに足を掛けた。
静まり返った空間に響く、春兎の呼吸音と車の走行音。
冷気の流れるブルペンで目の下に付着する汗を袖で拭って、サインを確認してグラブの中で握り変える。

先程とは違い、球速が遅く大幅に落ちる球を投げてみれば、捕手のミットへと吸い込まれた。一切動かないミットを見つめた後、マウンドの春兎へと視線をやった。

「ナイス!」

取ってくれた捕手に元気良く声を掛け、太陽のように温かい笑みを見せる。
二軍で輝いていた彼を、何故今まで一軍へと合流させなかったのか疑問が生じる程の制球や球速が安定した投球は、様子を見に来た監督に強い印象を残した。

この瞬間だけ春兎は誰よりも輝き、臆病で気が弱い彼はどこにもいなかった。
そんな彼に山岡が歩み寄り、小さくツンとした鼻先へと自身の指の背を持っていく。彼の匂いを嗅ぎ、警戒が解けると彼は褒めるように春兎の頭を撫でてやれば、またも " ぷぅ " と鼻を鳴らした。

「うわー、これからAももっと公になんねやろ?人気出るやろなぁー。」

口角をくっと上げながら、山岡は両手で春兎の両頬を包み込んで撫で続ける。
同じ金髪でも、山崎とこんなにも扱いの差があるのかと春兎自身驚いていた。山岡よりも小さい春兎は、彼から頬を押し上げられ、目尻が上を向いた瞳で彼を上目で見ては心底嬉しそうにはにかみ笑顔を浮かべる。

交代で山崎が立ち上がり、春兎が居たマウンドに立つ。
山岡は春兎の手を引き、壁際へと歩み寄ってしゃがみ込む。

「そーいちも、本当は良い奴なんやけどね。A相手には加減が分からんっぽい。」

「他の人と話してる時見てると確かにいい人そうではあるんですけど、今のところ僕は嫌いです。」

「んふっ、嫌いなんや。」

オブラートにも包まず、投球練習をする山崎を見つめながら発言する春兎に思わず吹き出してしまう。
スラッとした長い脚に見惚れ、それ以降2人の間に会話は発生しなかった。

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作者名: | 作成日時:2024年3月24日 13時

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