兎は君と相容れない (ページ28)

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春兎が居なくなった穴を埋めるのはそこそこに大変だった。
山﨑も山本も別の球団へと移籍し、必死に穴埋めしたというのに更に大きい穴が広がってしまった。

傷は癒えないが、皆立ち直って前を向いた頃にテレビで春兎の特集が組まれた。

練習日の真昼間に放送される番組を、時間が空いた数名の選手で視聴する。
厨房の音が響き、時折番組が聞こえない時もあったが画面には元気に笑い、元気に投げる春兎の姿がしっかりと映し出されていた。

「…うわ、はは。怯えてる。あったっすねこういう事。」

ソフトバンクの周東から必死に逃げる姿が映し出されると、中川がケラケラと笑って一緒に視聴していた選手に言う。

「……折角、やっと一軍に上がってきたのに。成績も悪くなかったのに。」

頬杖をつきながら視聴していた宮城は寂しげに呟いた。
隣に座っていた渡部はコクンと頷きながら朧気な瞳で画面を見やる。

流れる映像の多くは二軍のものが多かった。
舞洲で輝き笑う姿は、一軍に上がってから次第に減っていったものだった。誰にも怯えず、誰にも怯まず、マウンド上ではギラつき奪三振数を増やしていく。

皆が見たかった姿が幾度となく流れ、言葉数が減っていった。

「ファンの間からは " うさぎ " とも呼ばれ愛された春兎A投手。」

ナレーションと共に、プロ初安打を放つ姿が映し出され、その喜びように思わずはにかむ。
大炎上した試合とはいえ、一塁ベースの上で飛び跳ねて喜びを表し、汗で輝く笑顔は眩しかった。

1時間30分の特番が終了し、皆の心にはぽっかりと穴が空く。終わった、はず。けれど、ほんの少しだけ続きがあるかもしれないと続く番組も流すが、当たり前だが完全に別番組となり、春兎は出てこない。

そんな選手の中から抜け出した山崎は、選手サロンを後にして熱気が纏わりつくグラウンドへと歩みを進めた。

兎は二軍の檻から出さない方が良かったのかもしれない。
先住の猫が既にいたのだから。

───
END