兎は君と相容れない (ページ27)

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さめざめしく泣く選手らを横目に、山崎は大きく飾られた春兎の困った笑顔を見つめる。

ひっそりと執り行われた葬儀と火葬。オリックスの選手会役員と監督が顔を出したのだが、戻って来た彼らの顔は当たり前だがパッとしていなかった。

選手らが出席したお別れ会会場に大きく飾られた春兎の困った笑顔は、気が弱い彼をよく表していた。
重く陰鬱とした空気が漂う会場が居心地悪く、「気分転換。」と宇田川に伝えて会場を後にする。

真夏の木々の中に建つ会場は、1歩外に出るとセミが騒がしく鳴いていた。
気分転換なんて、大体は煙草を吸ったりするのだろうが彼は水を自販機で購入して喉を潤した。

陽射しに照らされる喪服は眩しいくらいに黒く、思わず目を細める。
柱に寄り掛かりながら車の台数や、ざわめく真緑の葉を見つめる山崎の元に1人の人物がやって来た。

「…あ。亮さんか。」

足音に気が付いた彼は、石川の方を見て呟く。
葬式や火葬にも参列したであろう彼は、こんな単純なお別れ会でも目を真っ赤にする程に泣いてしゃくりあげていた。

「…そーいちは嫌いなん？Aの事。」

彼は涙声で問い掛ける。
隣に並び、「飲みます？」と山崎が水の入ったペットボトルを差し出せば、彼はおずおずと受け取りひと口水を含んだ。

「好きっすよ。有り得んくらい大好き。」

「……じゃあ、なんで。」

「…だってあいつが俺を嫌うじゃないすか。嫌だって拒絶して、でもね聞いて、その時の顔がほんまに可愛くて。好きやなーって感情もあるし、憎たらしいってのもあるし。」

一切泣いていない山崎に背筋が凍る。
返事に悩みながら、「うぅん…。」と唸る石川を見つめて山崎は口角を上げた。

「そういや前、ほんまに可愛い事あったんすよ！」

元気の無い石川とは正反対の山崎は、笑顔を見せる。なぜ、そんな笑顔を向けられるのか。石川は眉間にシワを寄せた。

「ぎゅうって、何かの拍子に首に手かけちゃって。そうしたら、" 絞めてください、殺してください " って懇願してきて。…あれは可愛かったな。」

「……。」

「……亮さん笑ってよ。A、亮さんの事信頼してたんやから笑ってくれた方が嬉しいと思うで。」

なんて無茶を言うんだと考えるが、石川は口を噤んで視線を落とす。
どこで、道を踏み外したのだろう。隣に立つ山崎が、未知の生物に見えて仕方が無い。