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" 性格直すから仲良くしたい " なんて話していた日の事を思い返す。
まだぎこちないながらにも仲良くは出来ていた平和な日だったはずなのに、何故こんなにもなってしまったのだろうか。
オールスターから帰ってきた選手は、思う存分に楽しめたのか笑顔がキラキラと眩しく、その日誰とこんな会話した、こんな事をした、なんて話す者もいる。
最後尾を歩く春兎は、真っ青な顔をしながら山崎の隣に並んでいた。体調が悪いのか、隣にいる大男のせいなのか。
汗が滴り、熱気の満ち溢れる京セラドームは呼吸もままならなかった。
「…そんな顔する?ねぇ。」
隣で見下ろす山崎は、春兎の後頭部の髪をぐしゃりと掴んで引っ張って見せる。
「……すみません。」
小さな声で謝罪するだけで、それ以外の反応を示さない春兎に眉をひそめて余計強く髪を引く。
後ろ髪を引かれる、なんてこんな物理的な言葉で使われるだろうか。照明で照らされる球場に姿を現せば、監督が背後から春兎を呼んだ。
山崎は振り返り、名残惜しそうに手を離せば春兎の背中を押して自身から離し、宇田川のいる方向へと歩みを進めた。
「大丈夫か最近。」
監督室へと向かう長い廊下で静かに監督が春兎へ問い掛けた。
「……大丈夫です。」
「休むか、休んでもいいよ。」
「…休んだとして、幻滅されますか。僕を待ってくれる人はいますか。」
監督室の扉が開かれ、廊下より落ち着いた照明の中に入室すればソファに促されて腰を下ろす。
沈み込むソファに腰かけ、目の前に移る監督を目で追う。
「待ってくれる人はおると思うけどね。」
「……。」
「顔が真っ青。」
「……名指しするのは、卑怯だとは思うけど…、颯一郎さんが怖いです、嫌です…。野球まで嫌いになりかけてる。」
俯き、手元をじっと見つめる春兎を無言で眺める監督は、少し考えて頷いた。
不安が募る春兎は小刻みに手が震えていて、恐怖を感じている事は明らかだった。
監督は胸の前で腕を組みながらひとつ息を吐く。
「長期休養な。お前の穴はかなりデカいけど、それでも万全な状態になる事が重要やから。」
「……。」
「そーいちにも言っとくから。」
ペコンと頭を下げた春兎は、のそのそと立ち上がって監督室を後にする。
足音が響く度、グラウンドに向かう事すら億劫でロッカールームの扉の前でしゃがみ込んでしまった。
いつから何がきっかけで平和な日は崩れてしまったのだろうか。
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作者名:宮 | 作成日時:2024年3月24日 13時