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真夏日と言われたこの日は熱帯夜となっていた。
立ち込める空気はただでさえ熱いのに、人の多さと吹かない風のせいで余計熱気が留まる。

2回の裏にも登板した春兎は、先程よりも投球間隔が長くなっており、森がマウンドへと駆ける姿もあった。

「大丈夫?」

「…大丈夫っす。」

森の言葉に即答はする為、言葉はしっかりと理解しているのだろうか。
不安を抱えながらも、ポジションに戻るとミットを構える。

ショートゴロ、センターフライとまたも打ち取っていく。
そんな時、次の打者は嫌なくらいに粘っていた。
際どい球は全て振り、バットに当ててファウルにする。嫌いな打者に春兎の表情も歪んだ。

十数球目、漸く打ち取って大きな息を吐いた春兎は、俯き加減にダグアウトへ向かい、そのまま降板したかと思えば裏へと戻る扉付近で音を立てて倒れてしまった。
びっくりして飛び上がった杉本は「えっ?!え?!」と大きな声を上げながら春兎の元へと駆け寄って行き体を揺すってみる。

「あ、あ、連れて行きます俺。杉本さん打順来るでしょ?」

「あ、ほんま?ごめんAが。」

「お構いなく〜。」

杉本に声を掛けた周東は、立ち上がると春兎の意識を確認して肩を貸した。
体に力は入っていないが、虚ろながらも意識はあるようだ。監督らは「大丈夫か。」と声を掛けたが、周東の「大丈夫です。」との言葉を信用し、春兎を任せる事にした。

救護室へと連れて来た春兎をベッドに寝かせ、事情をスタッフに話してみれば、熱中症の疑いがあると直ちに応急処置が施され始めた。

「今日暑かったっすもんねー。」

「熱帯夜らしいですよ。」

保冷剤で冷やされる春兎を見つめながらスタッフへと話しかけて見れば、彼らも案外冷静で周東の言葉に返事をする。
少しすれば意識を取り戻し、春兎は片手で顔を覆い隠しながら

「すみません…。」

と小さな声でスタッフと周東に謝罪をした。
救護室の独特な香りが流れる部屋で、安心したような笑い声が響く。

「俺戻るね。よく投げたね、えらいよ。」

最初こそ怖かった周東も、扱い慣れて春兎の胸元をそっと撫でて声を掛けてくれるようになっていた。
近頃の山崎とは全く違う彼を羨ましく思いながら、「ありがとうございました。」と礼を述べる。はにかむ彼の端正な顔に惚れ惚れしながら隣の白い壁側に顔を向け、目を瞑る。

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作者名: | 作成日時:2024年3月24日 13時

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