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大阪へと帰ってきた御一行は、そのまま京セラドームでの練習となった。
試合が無く、悠々と練習をする中で春兎の隣を陣取る山崎に首を傾げる選手もいた。
口をきゅっと噤み、視線は常に誰かの足元。
腹の前に組んだ手はソワソワと忙しなく何度も握り直し、山崎の言葉にも返事が出来ていない。
「ねぇ、聞いてんの。」
頭上から低く諌めるような声がしたかと思えば、大きな手で前髪に指を通して強く掴まれ、グイッと頭を上向きにさせられる。
「ご、ごめんなさい、」
「今日どこにご飯行く?」
「…ッ、え、と…あの、えっ、と…。」
思考をグルグル巡らせるが、言葉が詰まって何も出ずに視線だけを彼から外す。
快音が響くドームの隅で笑顔の山崎とガチガチに固まっている春兎の姿を見て石川が歩み寄って行った。
「なーにしてんのっ。」
明るい声で張り詰めた空気が弾けた。
石川は春兎の肩に手を置き、隣に立ったが山崎が髪を掴んでいる姿を見てもう一度、「…なにしてんの?」と目をまん丸にさせて山崎を見て問い掛ける。
「亮さん、Aね、こうやってやったらなんでも言う事聞いてくれるんすよ。」
無邪気に笑う彼の頬はピンク色に染まる。
何も悪いと思っていない様子にゾッと背筋が冷えるが、ブルブルと震えている春兎を見て肩を抱いた。
「やめてあげて、怖がってる。おかしいってそーいち。こないだあんな心配してたのに。」
「……だってこの顔、可愛いじゃないですか。俺に対してだけこんな顔するんですよ。」
髪を掴まれ見上げたままの春兎の頬を撫で、ツンと鼻先に人差し指の腹で触れる。
怯えきった表情は他球団の選手にも見せるが、オリックスの中では山崎にしか向けない。上向いたままのため首も痛く、狂気を感じる彼に恐怖し、泣き虫弱虫の春兎は瞳に薄らと涙を見せる。
「ほら、こうやってすぐ泣く。ばぁか。」
「まじでやめてやれって、そーいち。可哀想やん、ねえ颯一郎。」
「……ええー。」
「えーじゃなくて。なんで?最近仲良さげやったのに。気に入らない事でもあった?Aがなんかした?」
手を離して見せれば、前髪がハラハラと落ちて顔に掛かる。後退って石川の背後に隠れた春兎を守りながら、彼は山崎へと問い掛ける。
「…なんか、どれだけ必死になって接しても、俺ってだけでトラウマ思い出すなら、好きになってもらわなくていいやって思って。」
石川の背後に隠れる春兎を見つめるその視線は嫌なくらい体に纏わりついた。
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作者名:宮 | 作成日時:2024年3月24日 13時