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「Aさん怖がってんじゃないすかー、もー。」

宮城はいつの間にか足元にしゃがみ込んでいた春兎の背中にそっと触れ、優しくさすりながら山崎に言う。走り回って上がっていた体温は、冷たい風に晒されゆっくりと奪われていく。

「なんでそんなになんの。話したいだけやん。」

「変なのに目付けられちゃって可哀想に。」

「なんが変なのやねん。」

自分自身にだけ全く心を開こうとしない春兎を見ながら、不満を顔にする。
重たい前髪をかき上げ、キャップのツバを後ろ向きに被り直して山崎は宮城の足元にしゃがみ込んだ。目線の高さが合い、怯えきった瞳を向けたかと思えば、すぐに顔を背けて宮城の裾を強く握る。

「なんもせんから。こっち向いてよ。」

端正な顔立ちの山崎は、大きな手をそっと春兎へと伸ばし、あちこちに向いた前髪の毛先へと触れた。
自らの足元でそんな手懐けるような行為が為されているものだから、宮城は風に乗って消える程度の小さなため息を吐く。

指先が視界に入り、またも春兎は山崎から顔を背け、立ち上がったかと思えば宮城にもう一度謝罪をして走り去って行った。

「は?意味分からん、なんで?は?」

突然逃げられてしまった山崎は離れていく春兎の背中を見つめ、立ち上がった。

「関わり方悪すぎっす。」

「いやっ、俺悪くないやろ。」

「めっちゃ悪いっす。あんな追い回しといてよく言うよほんと。」

やれやれ、と言ったように両手の平を上に向け、肩を竦める宮城を見下ろし、まだ不満が溜まっていそうな山崎はやり場の無い感情を噛み砕く。

雨が降りそうで降らない分厚い黒い雲の隙間から太陽が差し込み、晴れない山崎の心とは裏腹にグラウンドを照らし出す。
そして、遠くからは春兎の驚いた声がまたもグラウンドに響いた。

「ほら、あんなにビビりなんすから。」

声を聞いて宮城は隣に立つ山崎に伝える。

「えー…扱いづら。」

「慣れたら結構楽しい人っすよ。」

なんて笑う宮城をじっと見つめた後、キャップを外してぐしゃぐしゃと頭を無造作に掻き、同年齢の投手が集まる屋内へと歩みを進めた。

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作者名: | 作成日時:2024年3月24日 13時

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