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「話せるところまででええから、教えてよ。」

なんて、掛け布団の中に隠れていた春兎の頑張った手をそっと握って山崎ははにかんだ。
ぼんやりとした薄暗い照明だけが灯された部屋。オレンジ色の淡い光が山崎の瞳に反射し、その奥に春兎を映し出す。

「…颯一郎さんみたいに背が高くて、元気な人が小学生の頃からずっと一緒でした。僕の、幼馴染でした。」

「うん。」

話を始める春兎に優しく相槌を打ち、手の甲を親指の腹で何度も撫でてくれる。浮かんだ骨の形を確かめるように何度も往復する。

それから始まる春兎の昔話。
幼い頃から泣き虫弱虫意気地無しと幼馴染から馬鹿にされ、一回り近く大きい手で馬鹿にしたように髪を引っ張られていた。
それがまるで狩られた兎のようで面白く、下品に笑っては春兎を詰連れ回る際は髪を引っ張るようになっていた。

「……似てました。颯一郎さんと、その人が。」

俯き加減で話す春兎の瞳は震え、きゅっと口を噤む。
小さい春兎が愛らしくて、怯える姿が可愛くて、片手でも捻り潰すことが出来そうで、山崎の頭は昔話よりも目の前の愛おしい生き物の存在でいっぱいになっていた。

「昨日はおかしくって、颯一郎さんに怯えたけど…でも、違くて、本当はいい人だって分かって、て、…ひ、ひッ、」

昨日の失態についての言い訳をしていた春兎を目を細めて見つめた山崎は、大きな手で前髪に指を通し、頭頂部辺りでぐしゃりと髪を掴んでみた。
露になった幼い顔は不安に満ちて、ガラス玉のような瞳で彼を見上げる。小さな悲鳴は部屋に消えた。

「…こうやって掴まれてたん?」

地に這うような低い声は、春兎のトラウマを刺激する。
ぎゅうっと握る手に力を入れてみれば、下まぶたを引き攣らせて「痛い…。」と小さく呟く。

「可愛い。ほんまに兎みたいやな、弱い無力な兎。」

「なんで、なんでそんな事言うの、痛い、颯一郎さん痛い、」

ほんの少し持ち上げられれば、鼻根や眉間にシワを寄せ、山崎のシャツを握りながら上擦った声を上げる。
悲しそうな瞳から、またも溢れる涙に笑みを浮かべて春兎の頬を人差し指でプスリと刺してみた。

「ごめんなさい、昨日、ごめんなさい、あんなピッチングしてごめんなさい、許して…怖がってごめんなさい…。」

何故髪を掴まれているのかも分からずに思い当たる事全てを謝罪するが、山崎は引っ張ったまま自らの方に引き寄せる。

「……可愛い、ほんまに。」

掠れた山崎の声にただ震えるだけだった。

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作者名: | 作成日時:2024年3月24日 13時

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