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監督が目標とする7回裏。
自らの援護もあり、何とか並んだ得点。安打数はこちら側が多かった。
ピンチを迎えても何とか抑えきれていた春兎の信頼は上がっていただろう。またもダグアウトから出てマウンドへ向かう彼に、ビジター席からは拍手が送られる。

「むっちゃ投げるやん。」

相手球団の坂本はダグアウトから汗を拭った春兎を見つめて呟いた。

この回から、春兎は急激に崩れてしまった。
投球フォームもブレず、腕も伸びて今までと変わらなかったはずなのに、またも捉えられるようになってしまったのだ。
球威は落ちていないはずだが、相手のバットでいとも容易く跳ね返されてしまう。

あっという間にノーアウト満塁と大ピンチを迎えた春兎は、振り返って走者を確認して前を向き直す。
煩い鼓動が頭を支配し、脳を焦りで満たしていく。

打席に立つ岡本と真っ向からの勝負。
深呼吸をし、石川のサインに首を縦に振ってグラブを胸の前で構えた。
快音が鳴り物で震える空気を割って響く。「ぅあ、」と高々と上がる打球を追いながら春兎は呟いた。

同点が、この一打で4点差へと急激に広がる。
目の前がブレ、呼吸も上がる春兎を見つめる石川はマウンドへと小走りで向かった。

「…すみません。すみません、」

小さな声で何度も石川に謝罪をする春兎の背中に手を当て、「大丈夫。」と伝えてみるが涙が溢れて止まらないようだ。
ユニフォームで涙を拭うが、後から後から追い掛けるように真ん丸な瞳から大粒の涙が落ちていく。
こんな大量失点は今までに無かったからか、余計責任を感じているのだろう。

「大丈夫、よくある事。笑って、楽しんだもん勝ちだからほら。今日夜ご飯は何食べたい?」

「……オムライス…。」

「じゃあそれ食べる為にこの回だけ頑張ろ!大丈夫!やれる!」

太陽のように眩しい彼の笑顔にキラリと涙が反射したように思えた。
コクンと頷いた春兎は、腕で涙を拭って眉を下げてはにかんだ。

再開しても尚打たれる春兎は目を強く瞑って何とか感覚を取り戻そうと躍起になる。

最後にまた適時打を許してしまい、得点差は5となった。
内野フライで3つ目のアウトを取った春兎は、ダグアウトから出て来た監督に迎えられ、背中を手の平で叩かれたが励ましが詰まっているようだった。

アイシングを施し、全くダグアウトに顔を出さなくなった春兎は裏でタオルに顔を埋めて静かに泣いていた。

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作者名: | 作成日時:2024年3月24日 13時

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