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それから1ヶ月は経っただろうか。
始まった交流戦、東京ドームでの先発は春兎だった。
初めての東京ドームを散策する春兎に着いて回る山崎は、まるで護衛のようで相手球団の選手は中々寄りつけない状況だ。
「撫でていい？」
「襟足だけなら。」
「えー。」
「まだ完全に心開いた訳じゃないですもん。」
項から襟足までに手を置いて、ふわふわと撫でる山崎は春兎の言葉でぷくっと頬を膨らませる。まだダメなのか…と不満に思いながらも、拒絶はされたくない為言う事を聞くしかないのだ。
散策も程々に、練習を終え肩も作った春兎はダグアウトから戻って選手サロンで軽食を摂る。
「調子どう？」
目の前の山崎と会話せず、隣にいる福田と会話をする。
「自分的には絶好調かなぁとは思います。」
「なら俺らもちゃんと援護してやらなあかんなー。」
「お願いしますよ、期待してます。」
福田には作らない湧き上がる笑みを浮かべるくせに、と口をタコのように尖らせて不満を募らせる山崎は口にカレーを運ぶ回数が多くなる。
湿度が高いドームに両球団の選手が顔を出し、1番打者の福田が打席へと向かう。
先制しておきたいところだが、そう上手くはいかないだろう。
ダグアウトの前でキャッチボールをして肩を慣らす春兎は、快音が鳴る度打球を目で追った。あっという間に回が変わり、春兎はマウンドへと歩んでいく。
何度か投球すると、打者が打席へと入った。
「…ちょっと、やばいんちゃう？」
1回の裏が始まってまだ3分、ノーアウト2、3塁とピンチを迎えていた。ぽつりと廣岡が呟いた。
何度も汗を拭い、必死に腕を振り抜く。普段よりも球が高く、どれも捉えやすくなっていた。またも放たれた打球はライト前へと落ち、1点を先制されてしまう。
マウンド上の春兎は自らの胸をドンドンッと叩いて高ぶる焦りを落ち着かせようと必死だ。
駆けて行く石川は笑顔を向け、「大丈夫。」と春兎の尻をぽんと叩く。
次の打者は三振に抑えたが、次の強打者に3点本塁打を譲ってしまった。
センター方向へと伸び、バックスクリーン付近で跳ねた白球を見つめ、キャップを外す。髪をかきあげ、口を噤んだ。
普段と様子が違う春兎の姿に、内野手、捕手、コーチが集まり何度も春兎の肩を叩く。
「すみません、いけます、やれます。」
尋常じゃない程に汗をかき、顎からゆっくりと雫が落ちる。
皆で励ました後、夫々の持ち場へ戻り春兎もプレートに足を掛けた。
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作者名：宮
| 作成日時：2024年3月24日 13時
