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全く理解を示そうとしなかった彼の変わりように驚きながらも、これでやっと平穏な生活が訪れると思うと安堵ばかりだった。
この日先発では無かった春兎は、同じく先発では無くグラウンドに顔を出していなかった宮城の隣にいた。
厨房の忙しそうな音が響く選手サロンのモニターに映し出されるグラウンドの映像を2人で視聴しながら会話をする。
特にこれといった内容も無い頭を使わない会話でも暇を潰せるだけで楽しかった。
無音の試合映像は、目を離せばどんな試合展開が行われているか分からない。視聴していて違和感なのは快音が聞こえない事だった。
「宮城、坊主もいいけど今のシーサーみたいな髪型もいいね。」
「シーサーっすかね。」
「うん。外に跳ねてて、毛量もあるから。」
「そういうAさんは、オレンジ色の耳が垂れた兎みたいっすよ。」
頭上に手をやり、指先を下に向けて兎の垂れ耳を表現する宮城を見て「なにそれ。」と眉を下げてくつくつと笑う。
宮城よりは長くないが、目や頬に毛先が掛かる為周囲の選手と比べたら長い部類には入るのだろう。
2人して、お互いの容姿はなんの動物に似ているだとか、似合う髪型はなんだろうかと話し合っては納得いかないようで「違うって！」と楽しげな声が室内に反響する。
不意に目をやったモニターには、7回の裏で山崎が登板していた。
宮城が春兎のシャツを引き、「観ましょ観ましょ。」と心做しか上擦った声で誘う。
春兎も視線を向け、シャツを握っていた宮城の手を握って大きな背中の21を見つめる。
初球から豪快に放たれた打球は、無情にも相手球団の待つレフトスタンドへと叩き込まれてしまった。
「あらー。」
隣に座る宮城は、春兎の手を揉むように握りながら下瞼を上げて目を細める。
その後も走者を出し、ひとつのアウトを取れたかと思えば適時打が飛び出し、5点差もあった得点はあっという間に並ばれてしまった。
「調子悪かったんすかね。」
「ねー。追い込んでから打たれるかフォアボールばかり。」
「まぁ、今回の炎上で信頼を失うような投手じゃ無いっすよ。あの人は。」
前向きな宮城の言葉に眉を上げながらも、
「そうだね。次登板する時はきっと調整出来てるだろうしね。」
と同調した。
嫌いだと話していた彼の事を褒める春兎に宮城は驚いたが、後輩ながらに " 成長だなぁ " なんてしみじみと感じ、赤べこのように何度も頷いていた。
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作者名：宮
| 作成日時：2024年3月24日 13時
