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はる、と呼ばれた小柄な男の名前は春兎(はると)Aだ。名前の通り、兎のような彼はかなり繊細な人間だった。
選手導線で目立つような事をしていた為に、春兎と山崎の姿は写真に撮られ、SNSで瞬く間に拡散される。

「A、Aー。大丈夫この人優しいから、大丈夫。」

暖房が効いたロッカールームでも、距離の無い山崎に詰め寄られていた春兎は壁に同化しようと隅に身を寄せていた。
顔を一切向けない春兎に痺れを切らした山崎は、対角線上で着替えていた渡部を呼んだ。

寄ってきた彼は春兎を見るなり、優しく名前を呼びながら手ぐしで髪を撫でてやる。
環境が変わりすぎて強いストレスを感じているようだ。渡部を一瞥する春兎は、

「今日遼人と一緒いたい。」

「いやぁ。メニューが違うからなぁ。」

投手と野手の彼らは何れ離れて練習となる。
同い歳で仲の良い彼は春兎の事をよく知っている。指の背中で撫でてやれば震える体も落ち着きを取り戻し、瞳を細め " ぷぅ " とクセで小さく鼻を鳴らす。
甘える姿に渡部は微笑ましそうに目尻にシワを寄せれば、最後に頬を手の平で撫でてやりその場を離れていく。

渡部がいなくなった事で視界が開け、眩しいのか眉をひそめたが、目の前で山崎が胸の前で腕を組みながら見下ろしている事にまたも驚き、背を向けた。

着替えが済み、暖かいロッカールームから扉1枚を隔てた廊下へと足を踏み出せばひんやりとした空気が身に纏う。
それから屋外に出てみれば強い北風が体を打ち付け、肩を竦めた。

ウォーミングアップで体を温め、列を成して更に体の部位毎に動かしていく。
投手と野手で違う練習内容をこなし、1時間して漸く休憩となった。

渡部や茶野がおらず、暇な休憩時間を過ごしていれば足音が地面を伝って響いて来る気配を感じ取る。
振り返ってみれば、未だ元気な山崎が春兎を見つけて長い足で駆け寄って来ていたのだ。

「うわっ、うわ、うわ!!」

それしか言えず、春兎は足早に彼から逃げていく。
兎のように速い春兎と、それを楽しげに追い掛ける山崎は広いグラウンドで注目されていた。必死に走り逃げ、辿り着いた先にいた宮城の背後に「ごめん、ごめんね。」と謝罪しながら隠れてしまう。

その数秒後にやって来た山崎は、宮城の肩に手を置いて背後を覗き込んだ。

「目ガン決まりッすよ。」

容姿の割に低い声で宮城が山崎へと言う。

「Aが逃げるんやもん。」

口を尖らせる山崎から逃れる為に宮城の背中に顔を埋めた。

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作者名: | 作成日時:2024年3月24日 13時

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