兎は君と相容れない (ページ1)

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枯れ色の髪が風に靡いており、チクチクと目に掛かる。
前髪を手ぐしでかき上げ、天を仰げば眩しい太陽に目を細めた。
暑いくらいある舞洲の球場は、抜ける風のおかげで少しばかり過ごしやすかった。

小柄な身長でマウンドに立つ彼をテレビ中継画面で見ると遠近感がおかしく、よく先輩らに茶化されていた。どれもこれも愛のある茶化しで、舞洲の生活に慣れていた彼も真ん丸な瞳を糸のように細めて口角を上げ、芯が抜かれたような笑みを浮かべる。

二軍の中では最多勝利と最優秀防御率のタイトルを連続して獲得しており、仲が良い先輩らは「一軍デビューしたら奢ってやぁ。」と冗談半分に肩に腕を回す。

「お世話になりましたし、いつかそうしたいです。」

「じ、冗談やからな？後輩に集ろうとか思ってないで？」

「焼肉くらいは行きましょうよ。」

最初は人見知りをし、臆病で人の陰に隠れるような性格だった男がいつの間にか慣れた二軍生活で、上下関係無く人と仲良くなっている姿に同期も安堵していた。

流れ行く季節の中で行われた春季キャンプ。彼は初めてのA組合流で胸を押えていた。
心臓が煩く、今にも口から出てきそうなくらいに緊張しており、同期である茶野の背後にコソコソと隠れる始末だ。

「動きづらいって、ほら、大丈夫やからさー。」

シャツを握ったままの彼の背中を指先で優しく叩きながら何とか引き離そうとするが、一向に離れる気配が無い。

170cmも無い彼は、大体の人の陰に隠れる事が出来る。
そのせいもあり、茶野はどう扱っていこうかと首を捻った。

「ぅわあ！！」

そんな大きな声が屋外の選手導線に響き、それと同時に大きな手が肩に強く乗せられた。

「わあ"ー！！」

と叫び声を上げた彼は、肩の手を振り払いながら茶野の腹にまで腕を回し、シャツを握り締めながら逃げ始めた。
茶野を軸に、1人の大男と1人の小動物が周回し、時折鉢合わせては反射的に体がビクビクっと跳ねてまた反対方向に逃げ回る。

「捕まえた！」

そう言った金髪の男は小柄で体重が軽い彼の腹に腕を回し、軽々と抱き上げて茶野と選手導線を歩き出す。
怯えきった彼の表情は重力に従う髪に遮られ、大人しく腕の中にいたかと思えば、急に藻掻いて下ろしてもらおうと試みて手が付けられない。

「はーるー。ねぇ、こいついつもこんなんなの？」

隣を並んで歩く茶野に問えば、彼は首を左右に振る。
怖がっているのは明らかに金髪大男の山崎の行為が原因だった。