9 ページ9
飛行機搭乗前、広い広い空港で山本は大谷の元に駆け寄った。
周囲の声が響く屋内で、彼はニコニコと笑顔を浮かべながら大谷の前まで行くが、伊近は必死に背後から追い掛けていた。
「あ、は、初めまして。」
息を切らして足を止めた伊近は、肩で息をしながらペコンと頭を下げて大谷とその奥さんへと挨拶をした。
黒髪がハラリと目へと掛かり、姿勢を戻して髪を手ぐしでかき上げる。
「俺の熱愛相手っす。」
「付き合ってんの?」
「ほら、弁当作ってくれてるって話してた人。付き合ってないっすよ、ただの同居人。」
なんて山本は言うが、その瞳は愛おしいものを見るかのように伊近へと向けられる。手を伸ばし、頬を撫でる山本はペットを撫でる飼い主のようにも見えた。
「まさかこいつと撮られるとは。」
「ほんまにな。」
心地好さそうに目を細めながら返事をした伊近だが、公共の場だという事を思い出して山本の手から顔を背ける。
そんな会話を交わしていればいつの間にか時間になり、荷物を持って搭乗口へと向かって歩いた。
「何見てんの?」
ロッカールームに置かれたテレビを見つめる山崎に、山岡が問い掛けた。
頬杖をつきながら、余りにも真剣な表情で視聴している為声を掛けてしまったのだ。
「韓国着いたらしくて。」
と、山崎はテレビ画面を指差す。
空港の入口にカメラが押し掛け、やいのやいのと賑やかだ。
今か今かと待っていれば、建物の奥から選手らが歩いて来るのが見えて場の空気は更に盛り上がる。
「あ、奥に由伸おる。」
たった1人で大谷らの背後を着いて歩き、カメラの前を横切って行く。
伊近はどこに行ったのだろうか。
世間は大谷の奥さんばかりに目を向けており、カメラの波が選手らの前に立ちはだかっている。
「すごいな〜、カメラの数。」
「ねー。これじゃなんも出来ひんっすよね。」
「普段お前に向かうカメラも結構の数やけどな。」
顔の良い山崎は、「えっ?」と惚けたように眉を上げ、ニヤけている。
その顔が癪に触ったのか、山岡は彼の筋肉質な二の腕を叩いて笑いながらその場を去って行った。
336人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:宮 | 作成日時:2024年3月19日 21時