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花粉が舞う季節、周囲の人々はドラッグストアの薬が売り切れているだとかで嘆いている。
シッター先の母親も花粉が、と鼻を鳴らしているが、花粉症と無縁の伊近は寄り添いながらも症状の辛さをイマイチ理解していないようだ。
伊近からすると少し楽しい季節も中盤に、山本が突然部屋によく通る声で伊近へと声を掛けた。
「開幕戦、お前も来てね。」
のんびりとベランダの掃除をしていた伊近は手を止めて振り返り、「え？」と眉をひそめる。
「開幕戦。」
「なんで？おらんで、友人連れてくる奴。」
「一応同居人やし、パートナー的関係でもあるやんか。」
「パートナーっていっても、家政夫と雇い主みたいなもんやん。」
膝に手を付いて立ち上がった伊近は冷たい空気が入り込む窓を閉め、レースカーテンで薄ら目隠しをする。
暖房と陽射しで暖まるリビングで、山本はココアをホットコーヒーを2人分作り、マグカップをローテーブルへと置いた。
「大谷さんとこも奥さん連れてくるらしいし。」
「奥さんと雇われは違うの。」
「俺からしたら、お前は俺の奥さんみたいなもん。」
「奥さんを雇われと思ってんの？」
語弊のある言葉を伊近から指摘されれば「違う違う！！」と必死に弁解しようとする。
ソファに腰を下ろした伊近は、彼が淹れてくれたコーヒーをひと口啜り、薄っぺらい舌を火傷した。
もう少し冷めて飲もう、ともう一度ローテーブルへと置いて隣に腰をかける山本に視線をやる。
「一緒いたいじゃん。」
「ご飯も韓国の食べるんやろ。満喫するんなら俺いらんやん。」
「テレビとかじゃなくて、現地でお前に応援されたい。」
「…そんなもんなんかな。」
頬杖をつきながら「はぁっ。」と呆れたようにため息を吐く伊近を見つめ、手を伸ばして柔らかく冷たい頬を手の平で撫でた。
突然の事に驚きながら、片目を瞑って山本の方を見やる。
監督からの許可も得ているらしく、彼の行動の速さには驚かされてしまう。
「お前は、俺の事だけ見てたらええの。」
嫉妬を含んだ声色に伊近は気付いているのか、いないのか、「はぁい。」と一言返事をして、いつまでも頬に宛てがわれた手の平に擦り寄って見せた。
まるで、伊近の心が山本の手の中にあるかのようだった。
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作者名：宮
| 作成日時：2024年3月19日 21時
